2022年度までに、骨髄赤芽球から産生される増殖因子FGF23が高濃度で造血幹前駆細胞に作用し、ケモカイン受容体CXCR4からのシグナルを抑制してCXCL12による細胞係留作用を断ち切ることで、造血幹前駆細胞が骨髄から遊離することを確認できている。この経路が骨髄異形成症候群MDSモデル(vav-NUP98/HOXD13 Tg(NHD13)マウス)でどう働いているかを検討している。当初vav-iCre:FGF23flox:NHD13を作成していたが、赤芽球でvavが発現しているかどうかが十分確認されておらず、また規定される範囲も血球全般と広いため、これをより選択性の高い実験系とするため、赤芽球特異的Cre(Glycophorin-A(Gypa)-Cre)マウスを新規作成し、Gypa-Cre:FGF23flox:NHD13 を交配中である。また、FGF23を身体中で最も多く産生する骨細胞の特異的Cre(DMP-1-Cre)を用いて、DMP-1-Cre:FGF23flox:NHD13も作成中であり、こちらはほぼ目的のマウスが生まれてくる段階まで交配が進んでいる。これらにより、本疾患におけるFGF23の本来の機能が明らかになっていく予定である。また、骨髄増殖性腫瘍マウスモデル(JAK2V617F Tg)における骨髄脂質プロファイル解析がほぼ完成し、野生型と比較して大きく変化する脂質を発見した。これを補正することができる酵素のトランスジェニックマウスとの交配で血液データの有意な変化を確認できた。更に、G-CSF投与の際に特定の細胞種で大きくその発現が変化するadrenomedullinについて、目的細胞種特異的欠損マウスが出来上がった。定常状態では大きな造血システム変化は認めていないが、今後動員や骨髄移植後の生着など、骨髄に大きな負担がかかる実験系でその異常を捉えていく。
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