研究実績の概要 |
近年、心疾患に対する新薬やステントなどデバイスによる治療法の新規開発は目覚ましい発展を遂げており、従来では社会復帰が困難とされていた心疾患患者が早期に治癒し社会復帰できた症例の増加が目覚ましい。しかし一方で、臓器提供による心移植でしか救命できない末期重症心不全の患者数も着実に増加している。わが国では1999年に臓器移植法に基づく心臓移植が開始され、国内での移植数は増加している。それでも移植を必要としている患者数は増加の一途であり、需給ギャップの拡大は明らかであり、移植医療以外の治療法の確立が急務とされている。 我々は従来のティシューエンジニアリングでは必須とされていた3要素(1 細胞, 2 足場材料(バイオマテリアル), 3 生理活性物質)のうち、足場材料となるバイオマテリアルを用いることなく細胞だけで立体構造体を作成する技術の開発に成功し“剣山メソッド“と国内外で呼ばれるようになった。本研究では1. 液体を拍出する機能をもった心筋細胞構造体の体外での作製方法の確立2.小動物の大動脈へ移植し血液拍出能力および生着の可否を当初の目標と設定する。 iPS細胞由来ヒト心筋細胞をバイオ3Dプリンタで立体化し、拍動能力を中心に評価した。線維芽細胞や血管内皮細胞の混合比率、培養液の組成などを様々な組み合わせを検証し、一定の強度に達した段階で小動物への移植を試みた。移植方法および生体内でのどの部位に移植するか各種検討した。ラットの血管にラッピングするように心筋細胞構造体を移植することに成功した。移植された心筋細胞は移植後1か月目に生着し、拍動していることが観察された。しかし、循環動態に影響を及ぼすほどの拍出は得られておらず、また、構造体の強度が脆弱であるため、かなり繊細な外科的操作が移植時には必要とされ、まだまだ改善の余地があることが明確となった。
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