研究課題
好酸球性副鼻腔炎は下気道・全身性疾患を伴う難治性副鼻腔炎であり、その原因は未だ不明である。治療は経口ステロイドのみが有効であり、それに匹敵する治療法も確立されていない。しかし近年のサイトカイン等に対する抗体薬の出現で個別化医療の可能性が問われるようになってきた。本研究では、オリジナルパネルを使用した nCounter による遺伝子発現解析によるクラスター分類、病変に存在する微生物叢のマイクロバイオーム解析、全ゲノム関連解析(GWAS)、DNAメチル化解析によるマルチオミックス解析による好酸球性副鼻腔炎のエンドタイプ決定を行い、本疾患の個別化医療へのアルゴリズムを作成する。さらに鼻茸構成細胞のSingle cell RNA-seq 解析(トランスクリプトーム解析)を行うことにより、鼻茸に浸潤する好酸球と末梢血好酸球が同じであるのか、それとも遺伝子発現や機能に違いがあるのかを明らかにする。本研究では、①FKN-panel 遺伝子発現と臨床データを基に数種類からなるクラスター分類を決定する。②マイクロバイオーム解析結果と臨床データ・遺伝子発現の関連を明確にする。③GWASによる遺伝子型とクラスター分類の関連性を明確にする。④好酸球性副鼻腔炎鼻茸の遺伝子発現とメチル化の関連を明確にする。⑤1~4を総合解析し、最終的に好酸球性副鼻腔炎のエンドタイプを決定する。
2: おおむね順調に進展している
好酸球性副鼻腔炎40名、非好酸球性副鼻腔炎15名、健常者12名において血清中のレプチン濃度を測定すると、好酸球性副鼻腔炎患者では、有意に他の2群よりも高値であり、レプチン濃度は末梢血中好酸球率および鼻茸組織中好酸球数と有意な正の相関を示していた。さらにレプチン自身が鼻茸由来線維芽細胞からのEotaxin-3の産生を亢進していた。以上のことはレプチンが好酸球性副鼻腔炎の病態に関与していることを示した。好酸球性副鼻腔炎患者、非好酸球性患者、健常者から鼻ぬぐい液を採取し、鼻腔内の細菌叢を16S rRNAのPCR増幅法により検討した。その結果、好酸球性副鼻腔炎では黄色ブドウ球菌の検出が多く、非好酸球性副鼻腔炎で特徴的菌の存在が認められた。その菌の特徴を調べると短鎖脂肪酸、特に酪酸を産生し、アラキドン酸代謝に影響を及ぼす遺伝子発現を低下させていることが判明した。鼻茸細胞やアレルギー性鼻炎の鼻粘膜では、コロナウイルス受容体であるangiotensin-converting enzyme 2 (ACE2)が減少していることを見出した。さらに気道上皮細胞では、短鎖脂肪酸、特にプロピオン酸の刺激によってACE2の発現が減少した。副鼻腔炎では常在菌に変化が起こり、短鎖脂肪酸の量にも違いが起こっていた。当科オリジナルの遺伝子パネルを使用して好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎の遺伝子発現を調べた。現在解析中であるが、いくつかのクラスターが存在することが判明した。
オリジナルの遺伝子パネルのデータとマイクロバイオームのデータを数理解析により検討しエンドタイプ分類を行う。それによりエンドタイプ分類における検出細菌叢の重要性が判断できると思われる。GWASおよびエピゲノム解析はほぼ終了しているので、解析を開始する。好酸球性副鼻腔炎に有意に相関している遺伝子を同定する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 6件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件)
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