研究課題/領域番号 |
21H03181
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
太田 茂 和歌山県立医科大学, 薬学部, 教授 (60160503)
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研究分担者 |
佐能 正剛 和歌山県立医科大学, 薬学部, 准教授 (00552267)
古武 弥一郎 広島大学, 医系科学研究科(薬), 教授 (20335649)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 化学物質過敏症 / 揮発性有機化合物 / 匂い物質 / 嗅上皮 / 薬物代謝酵素 |
研究実績の概要 |
化学物質過敏症の原因となりうる匂い物質や揮発性有機化合物の感受性の決定要因を明らかにするため、in vitro、in vivo評価系を用いて、嗅上皮や鼻粘液における薬物代謝と嗅覚機能との関連性を明らかにしていく。嗅上皮や鼻粘液における薬物代謝酵素の誘導剤または阻害剤が、匂い物質の代謝を変化させることにより嗅覚受容体の活性化を制御することができる化学物質過敏症治療薬となることが期待される。当該年度は、次のような研究成果が得られた。 マウスから単離した嗅上皮の9000 g上清画分と、6種類の芳香族および脂肪族のアルデヒド基を有する匂い物質 (benzaldehyde, vanillin, 4-hydroxy-3-methylbenzaldehyde, heptanal, n-octanal, trans-2-octenal) を反応させた際の代謝物生成を、質量分析装置により評価した。全ての検証化合物において、酸化代謝物であるカルボン酸の生成が認められた。マウス嗅上皮において発現することが明らかとなったアルデヒド酸化酵素分子種 AOX2およびAOX3タンパク質を用いて、アルデヒド匂い物質に対する基質特異性を評価したところ、両分子種とも全ての検証化合物に対して酸化活性を示した。また、両AOX分子種阻害剤の添加は、アルデヒド匂い物質の酸化反応を抑制した。 以上より、マウス嗅上皮におけるアルデヒド匂い物質の酸化反応には、アルデヒド酸化酵素の分子種であるAOX2、AOX3が関与することが示された。また、NAD+およびNADP+の添加により、マウス嗅上皮S9におけるアルデヒド匂い物質の酸化代謝の一部が増加する結果が得られたことから、マウス嗅上皮におけるアルデヒド匂い物質の酸化反応には、アルデヒド脱水素酵素も関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いくつかの揮発性有機化合物を検証化合物として用い、嗅上皮における薬物代謝の関与をin vitro評価にて確認することができた。これら成果は、学会および国際論文にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
薬物代謝酵素の発現や活性には一般に個人差があることを鑑みると、嗅上皮における薬物代謝能は、化学物質過敏症の感受性を決定づける因子となっている可能性がある。今後、以下の研究を中心に進め、in vitroだけでなく、in vivoにおいても薬物代謝の関与を明らかにしていきたい。 1.匂い物質の代謝評価 鼻腔内洗浄液を用いたin vitro代謝試験も行い、匂い物質の代謝が嗅上皮組織内と鼻粘液のいずれで生じているのかを検証する。また、マウスに匂い物質を鼻腔内投与もしくは吸入曝露した後に鼻腔洗浄液を採取し、匂い物質と代謝物を分析することで、匂い物質の代謝が鼻腔内においても生じるのかをin vivo 評価する。 2.マウスの行動評価 上記の匂い物質の代謝評価を踏まえて、代謝の寄与が大きい匂い物質を選定し、この匂い物質に対するマウスの嗅覚閾値、嗜好性、識別力などを行動試験により評価する。その際に、menadioneなどのAOX阻害剤を併用することで鼻腔内の薬物代謝活性を変化させたマウスと比較し、嗅覚機能における薬物代謝の寄与を精査する。
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