研究課題/領域番号 |
21H03365
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
永森 收志 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (90467572)
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研究分担者 |
Wiriyasermkul Pattama 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (80825836)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トランスポーター / プロテオミクス / D-アミノ酸 |
研究実績の概要 |
ヒト体内で物質輸送を司る450種類以上のSLCトランスポーターのうち、30%がオーファン分子であり、輸送基質が報告されている分子の多くについても生理機能は未解明である。特に生体内において希少な物質の輸送を担う分子の実体のほとんどが不明である。主要栄養素であるアミノ酸は輸送体研究も進んでいるが、それらはL-アミノ酸トランスポーターである。一方、鏡像異性体のD-アミノ酸も重要な生理的役割を持つ。生体内のアミノ酸がL体であることはよく知られているが、微量ながらD-アミノ酸も生体内で存在しており、生体内で重要な役割を持つことが明らかになってきた。D-セリン(Ser)は、脳内Serのうち三分の一を占め、興奮性化学伝達を制御しているが、その輸送分子については不明な点が多い。本研究では、網羅的膜プロテオミクス、アミノ酸メタボロミクスにcell-free系からex vivo, in vivo系まで多様な輸送機能解析系を組み合わせる分子から個体までを解析する階層的手法で、希少物質を輸送するトランスポーター分子群を同定し、その輸送システムの全体像を明らかにすることを目指している。これまでに、腎臓刷子縁膜におけるD-Serトランスポーターを複数分子明らかにすることに成功した。本研究で明らかにされる新たな輸送システムの理解は、その輸送システムや基質が関連する疾患の治療・診断法開発を促進するだけではなく、トランスポーターの隠された輸送機能を明らかにする手法を提示するものである。さらに本研究で開発される手法により、微量で生理活性を持つ栄養素を輸送する新規トランスポーターの同定が可能になることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・アミノ酸メタボロミクス: 正常マウスとIRIマウスの血液および尿中のL-アミノ酸およびD-アミノ酸の網羅的解析を行い、全アミノ酸の変動情報を経時的に獲得した。 ・無細胞系を用いたD-Ser輸送活性の定量的解析: 精製トランスポーターや、精製タンパク質分子を再構成したプロテオリポソームを用いて、候補分子として見いだしたSMCT1およびSMCT2のD-Ser輸送kineticsを解析し、D-Ser輸送機序やkineticsをcanonical基質と比較した。さらにスクリーニングで、対照分子やSMCTsと逆に毒性を抑制した候補分子について、その輸送活性を検討したところ、D-Ser排出をしている可能性が示唆された。 ・BBMVを用いたD-Ser再吸収トランスポーター解析: 正常マウスおよびIRIマウスBBMVを用いて、ASCT2およびSMCTsのD-Ser輸送寄与率を詳細に解析した。その結果、膜プロテオーム解析で見られた脚気を指示する結果が得られた。 ・他の臓器、組織のD-アミノ酸トランスポーター解析: 腎臓BBMV以外の臓器、組織の膜プロテオーム解析を進め、トランスポーター探索のための基盤情報を獲得した。
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今後の研究の推進方策 |
・アミノ酸メタボロームデータと膜プロテオームデータの解析: これまで取得した網羅的データを統合し、D-Ser輸送システムの特徴を明らかにする。 ・single cell RNA-seq解析: 公開されているIRIモデルマウスなどのscRNA-seqデータと本研究で得られた網羅的データを統合解析する。 ・D-アミノ酸輸送システムの網羅的解析: キラルアミノ酸メタボローム解析、膜プロテオーム解析、多階層輸送機能解析を用いて、腎臓刷子縁膜のみならず側底膜および細胞内小器官、さらに他の臓器、組織におけるD-アミノ酸輸送体の同定を進め、生体におけるD-アミノ酸輸送システムの解明を目指す。 本研究で得られた解析結果を統合し、腎刷子縁膜D-Ser輸送システムを明らかにし、論文としてまとめる。また、腎臓全体におけるD-Ser輸送システムの全体像を捉える。さらに、本研究で確立した研究手法をとりまとめ、他の微量生体物質の未知なるトランスポーターを解析するためのプラットフォームを提供する。
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