ヒトが動的な刺激を観測した際に生じる自由エネルギーの増減と感情との対応をモデル化した。自由エネルギーの減少は予測不確実性の減少と情報獲得を意味し、その結果としてポジティブな感情が生起されるとする考えにもとづく。動的な刺激として、音列(音楽)刺激を用いたモデルの検証実験を行った。被験者の主観報告による感情反応と、音列から計算される情報獲得およびその期待値との相関性からモデルの妥当性を検証した。(本研究の成果は日本感性工学会にて2回に分けて発表し、優秀発表賞を2回とも受賞した。) ベイズモデルとして定式化される脳内モデルの事前分布を切り替えることにより生じる自由エネルギーの減少量が、Aha体験に見られるポジティブ感情を説明する数理モデルを提案した。この数理モデルを用いて、脳内モデル切替後の認識が意外かつ容易である場合にポジティブ感情が高まるとの予測を得た。このモデル予測を実験仮説として、トランプカードマジックを題材とした洞察課題を用いて、マジックの種を理解した際の感情反応をfMRIを用いた脳計測と主観報告で調べた。その結果、脳反応(前帯状皮質、および海馬)および主観報告において、仮説を支持する結果を得た。本研究成果はジャーナル論文にまとめ投稿済みである。 感情モデルの逆問題への応用として、美的感性を最適化する形状生成システムを構築した。構築したシステムは、曲面形状を構成する曲率の状態遷移を用いて自由エネルギーを計算し、任意の自由エネルギーの値を満たす3D形状を逆に生成する。自由エネルギーが感情の覚醒度を表し、その適度な値が快や美的好みを最大とする覚醒ポテンシャルモデルを検証した。その結果、曲率から計算する自由エネルギーに対して、形状の美的好みが上に凸の関数となることが示され覚醒ポテンシャル理論を支持した。本成果は、工学設計のトップジャーナル論文として発表した。
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