研究課題
極限低温クライオスタットを搭載した高分解能レーザー角度分解光電子分光装置の整備を行なった。超伝導転移温度が3.7Kと低温いSnの超伝導ピークの測定を精度良く行えることを確認し、試料部の温度及びエネルギー分解能においてそれぞれ目標値を達成していることを確認した。また、トポロジカルノーダルラインをバンド構造に持つ物質の超伝導ピークの観察に成功しており、フェルミ準位近傍のフラットバンドと高い超伝導転移温度との関係を元素置換を行いながら探る研究を行なった。また、1次元鎖の積層構造からなる新しいエキシトニック絶縁体の実証にも成功した。理論的には、その試料側面にトポロジカルスピン流が流れているという予想があり、関連する実空間電子状態が実際に観察されているため、今後、励起子凝縮とトポロジカル物性とが共存し発現する新規物性の開拓が期待できる。さらに、磁性トポロジカル物質の研究にも着手した。特に本年度は、Gd系の磁気スキルミオン物質の電子構造の解明を行なった。磁性体の電子状態は異なる磁区を空間的に選別しつつ測定しなければ本質的な理解は得られない。また、劈開表面では複数の終端面が露出する可能性があり、それらにおいても選別測定しながら、表面状態とバルク状態を区別し理解する必要がある。それらの難しい条件に耐えうる実験を行うことで、フェルミ面のネスティングにより局在磁気モーメントと遍歴電子がカップルし磁性が発現する機構を解明することができた。特に、磁区ごとに波数空間の異なる位置に擬ギャップが開くこと、またその結果、閉じたフェルミ面とはならず、異常とも言えるフェルミアークが形成されることを突き止めた。
2: おおむね順調に進展している
極低温かつ超高エネルギー分解能で電子構造を観察可能な装置環境が整ったことで、今後の研究が大きく発展することが期待できる。特に、スピン偏極状態と共に発現が期待されるトポロジカル超伝導状態の超伝導ギャップに対しては超精密な測定が要求されるため、それに見合う装置環境が整備されたことは非常に意義深い。また、新規物性開拓も精力的に行い期待通りの成果が出ている。トポロジカルノーダルライン電子構造における超伝導状態の観察、トポロジカルエキシトニック絶縁体候補物質の直接バンド観察、磁気スキルミオン物質の磁性発現機構の解明など、いずれにおいてもARPESの精密測定によって成し遂げられた成果である。以上の進歩状況から、本研究は概ね順調に進展していると判断される。
極低温・超高分解能レーザーARPESを用いて、様々な形態のトポロジカルエッジ状態を測定する。高次トポロジカル候補物質に於けるヒンジ電子構造の解明や、極低温で可能となるトポロジカル超伝導体のエッジ状態観測を行う。これらのトポロジカル相で発生するスピン流のパスは、結晶表面の構造的差異で変化し、理論的にも不確定性があるため、その解明には顕微分光による選別観察が求められる。また、ファンデルワールス結晶の剥離試料や、トポロジカル薄膜を組み込んだ材料で発現が期待される新規のトポロジカル相を開拓する。さらに、薄膜のラシュバ状態における超伝導状態やカイラル超伝導など、極低温測定でしかなし得ない研究にも挑戦する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 5件、 招待講演 6件)
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