研究課題/領域番号 |
21H04447
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
東 俊行 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (70212529)
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研究分担者 |
飯田 進平 東京都立大学, 理学研究科, 助教 (20806963)
久間 晋 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (50600045)
木村 直樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (80846238)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 一分子 |
研究実績の概要 |
真空中に孤立した1分子イオンという少数多体系の内部量子状態に関して、小型分子イオンの数10秒から数10分の長い時間領域において現れる、電子・振動・回転準位における励起・脱励起ダイナミクスを研究する。励起されたこれら分子の内部エネル ギー散逸過程は、それぞれの自由度間のカップリングを含めて電子構造や分子構造などの固有の特性を反映する。この過程を理解することは、 基礎的な量子少数多体系ダイナミクスとして興味深いばかりでなく、応用面での重要性も高い。
このような数分以上の極めて遅い時間領域の量子ダイナミクスが、従来の理論的枠組みで説明されるのか、さらにその理解を基礎とした能動的制御ができるのかという問いに答えるために、極低温イオン蓄積リングを利用して、黒体輻射を抑制した4K温度環境下に分子イオンを保持し、様々なレーザーを組み合わせた時間分解精密分光により準位ごとの変化を観測・制御する。これにより、異なった自由度へのエネルギー移動、レーザー を用いた能動的な冷却、さらに複数の準位モード間の干渉の観測を通して、極めて遅い量子ダイナミクスを探索・制御する新たな研究領域を開拓する。
本年度は、3原子分子正イオンN2O+ の振動モード間相互作用によるフェルミ共鳴ダイナミクス観測に取り組んだ。計画通りに、フェルミ共鳴で結合した状態のほうが結合してない場合よりも相対的に寿命が伸びることを数秒の寿命観測を実際に行って確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3原子分子正イオンN2O+ の振動モード間相互作用によるフェルミ共鳴ダイナミクス観測を中心に取り組んだ。直線3原子分子イオン N2O+ の振動モードには、NN-O 伸縮振動、変角振動、N-NO 伸縮振動があり、各振動の振動量子数を (v1 v2 v3) と書く。また、N2O+ では、フェルミ共鳴、すなわち異なる振動モードの振動準位が近い場合準位が結合する現象が知られている。この現象は赤外分光ではよく知られているが、振動状態の輻射冷却は非常に遅く、共鳴状態にある N2O+ の冷却過程を実際に観測することは困難であった。 極低温静電型イオン蓄積リングでは、N2O+ の NN-O 伸縮振動が数秒という時間スケールで輻射冷却する。 N2O+ の電子状態はスピン-軌道相互作用で X2Π1/2 と X2Π3/2 の 2つに分裂し、それぞれの電子状態に各振動状態かが存在する。 X2Π3/2 における振動状態は (2 0 0) と (1 2 0) がフェルミ共鳴で結合するが、 もう一方の X2Π1/2 ではこれらの振動準位は結合しない。 実際の実験では、分光用波長可変レーザーに当初OPOレーザーを採用していたが、長時間の波長安定性に問題があることが明らかになり、これを色素レーザーに取り替えることによって解決した。 その結果、理論予想通りに、フェルミ共鳴で結合した状態のほうが結合してない場合よりも相対的に寿命が伸びることを、数秒の寿命観測を実際に行って確認した。また、計測誤差を評価して正確な絶対値を導き出すために様々な要因から生成されるバックグラウンド成分の詳細な検討も実施した。
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今後の研究の推進方策 |
N2O+の振動モード間相互作用によるフェルミ共鳴ダイナミクス観測では、これを蓄積時間のより長い範囲へと適用し寿命決定精度を上げるとともに、当初の目的であった、IR レーザー (波長 4.52μm) を用いてフェルミ共鳴準位に選択的にレーザーポンピングすることによるポピューレション制御を時間分解分光で観測することを目標とする。 また異核2原子分子正イオン精密回転分光では、CaH+イオンの生成のためのイオン源開発に取り組んだものの、期待どおりの収量生成に至らなかった。これを受けて、ハロゲン化水素 HX+ (X=F, Cl, Br)などの有力候補の分子イオンを使った分光に挑戦したい。
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