研究課題/領域番号 |
21H04460
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
村上 泉 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (30290919)
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研究分担者 |
藤井 恵介 京都大学, 工学研究科, 助教 (10637705)
佐々木 明 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 上席研究員 (10215709)
川手 朋子 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (10647100)
坂上 裕之 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (40250112)
鈴木 千尋 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (30321615)
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (50361837)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | 準連続スペクトル / 多価イオン / プラズマ分光計測 / 統計理論 |
研究実績の概要 |
(1) 極端紫外(EUV)領域の高波長分解高分散分光器の設計を行い、制作を開始した。高分散の回折格子は、2300line/mm及び、4600line/mmのものを開発し、Sn 13nm 及び 5-8nmの領域の高分散分光観測が可能になるような光学系の設計を行った。 (2) レーザー生成プラズマからのUTAスペクトルの観測を行うための準備として、プラズマ生成に必要な実験システムの設計と構築を行った。ターゲットチャンバーと真空排気系の整備等を行い、実際のプラズマ生成が可能な段階に到達した。 (3) 核融合研の大型ヘリカル装置(LHD)を使ったプラズマ実験でタングステンや希土類をペレットで入射し、多様な電子温度や密度におけるEUV領域のスペクトルを取得した。また、電気通信大学の電子ビームイオントラップTokyo-EBITと既存のEUV分光器を用いて、タングステン多価イオンの5nm近傍のUTA構造に関する分光測定を行った。高次光を用いることによって、これまでよりも高分解能なスペクトルを取得することに成功した。 (4) 第一原理計算により、タングステン22~24価の原子構造、放射遷移確率などの原子データの計算と衝突輻射モデルを構築し、EUVスペクトルを計算した。 (5) これまで藤井らは、原子構造が完全にカオス的である原子の発光スペクトルの統計モデリングを行ってきた。これは電子-電子相互作用が強い極限を考えていることに相当する。2021年度はその逆の極限である、電子-電子相互作用が弱い極限での統計モデルについて検討を行った。EUV光源用Snイオンの原子モデルの物理シミュレーション及びデータ科学的な研究を行なった。Sn及び希土類などのプラズマからのEUVスペクトルの特性を、局所的な遮蔽水素近似で表す方法を提案し、実験スペクトルとの比較によってそれが妥当なことを確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) EUV用高波長分解高分散分光器設計に関し、Tokyo-EBITと既存の分光器を用いた分光測定結果を考慮することで、新規に製作する高分解能分光器の指針を立て、回折格子を含めた分光器の仕様を決定し、筐体などから詳細設計・製作を進めた。今年度完成させる予定である。 (2) レーザー生成プラズマ実験用の装置は組み立てが完成し、最初のターゲット材料としてタングステン板の準備も完了し、レーザーアブレーションプラズマの生成が可能な状況となっている。 (3) LHD実験でこれまで得られたタングステン等スペクトルについて、整理し、理論モデル・統計モデルとの比較ができるように準備を進めている。 (4) タングステン多価イオンの第一原理計算によるスペクトルモデルの整備はこれまで22価~49価ができており、UTAに大きな寄与が考えられる低価数イオンへモデルを拡大している。 (5) 原子スペクトルの統計モデルに関し、電子-電子相互作用が弱い極限の原子についても、電子密度が小さいプラズマではカオス極限と同じ統計則を有することが示唆された。 SnイオンのEUV光源用原子モデルは、物理シミュレーション及びデータ科学的な研究それぞれにおいて、概ね順調に進展している。要素技術の開発が進み、物理メカニズムの研究の準備が整えられた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 高波長分解高分散分光器の製作を進め、動作試験と、レーザー生成プラズマ用実験装置での初期計測を実施し、性能を確認後、電気通信大学へ移送してTokyo-EBITを用いて重元素多価イオンのUTAスペクトルに対して高波長分解取得を行う予定である。 (2) レーザー生成プラズマ用実験装置では、高分解能分光器の設置に向けて、同分光器の仕様に合わせて接続に必要な物品の検討と整備を進める。同時に、既存の通常分解能の極端紫外分光器・可視分光器を設置して、実際のプラズマからの発光スペクトルの予備的な観測を行う。 (3) Tokyo-EBITでは既存の分光器で実施可能な分光測定を進める。LHD実験で得られているタングステン等のスペクトルを整理したものに対し、データ科学を適用した解析ができるように環境を整え、解析の実施と統計モデルの検討に使えるようにする。 (4) 第一原理計算に基づくモデルは、タングステンの広い価数領域に拡大するとともに、希土類やすずに対しても同様のモデル構築を進め、UTA統計理論構築のための検討材料とする。統計モデル検討において、第一原理計算との比較とともに、スペクトルの波長方向に関する分布形状について検討を行う予定である。 (5) EUV光源用Snイオンに対して得られた成果を、核融合プラズマ中のWなどにまで拡張して適用し、その原子構造、発光スペクトルの物理的、統計的性質に基づいて、簡潔かつ正確なモデルの構築、及び実験的な検証を進める。
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