研究課題/領域番号 |
21H04650
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福谷 克之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10228900)
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研究分担者 |
中西 寛 明石工業高等専門学校, 専攻科, 教授 (40237326)
関場 大一郎 筑波大学, 数理物質系, 講師 (20396807)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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キーワード | 水素 / 拡散 / 金属水素化物 / 金属酸化物 / トンネル効果 / ゼロ点振動 |
研究実績の概要 |
表面を介した水素の拡散は,水素吸蔵材料における水素の吸放出や,燃料電池電解質におけるプロトン移動など水素をエネルギーとして利用するプロセスの素過程として重要である.また低温では,水素の低質量に起因した量子効果が顕著になるため基礎的な観点からも興味が持たれる.本研究では,低エネルギーイオンビームと抵抗測定を組み合わせたQuench-Recovery(QR)法と共鳴核反応法(NRA)を活用することで,水素拡散の表面効果と量子効果の詳細を解明することを目的としている. 本年度は,エネルギー可変イオンビーム源の導入と抵抗測定によるQR法を整備し,金属Pdにおける水素拡散の研究を行った.Pd中では水素が~50Kで秩序無秩序転移を起こし,その際抵抗に異常が現れることが知られている.この50K異常にQR法を適用し,水素のホッピング頻度の温度依存性の測定を行った.また第一原理計算によるポテンシャルを求め,そのポテンシャル上での水素の量子状態解析を行った.さらに,低速イオンビーム照射を行うことで,準安定構造が形成されることを見出し,この準安定構造が安定構造へ緩和することを確認した.QR法を用いて緩和の温度依存性,同位体依存性計測に着手した.また二酸化チタン表面における水素拡散をNRAと理論計算により調べた.二酸化チタンには結晶多型が存在し,典型的なものとしてルチル型とアナターゼ型が存在する.NRAにより,水素の深さ分布を計測することで,拡散係数の評価に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Pd水素化物には,~50Kで水素が秩序無秩序転移を起こすのに伴い抵抗に異常な振る舞いが現れる.急冷後の抵抗緩和を測定することで,緩和時間から水素のホッピングレート解析を行った.ホッピングレートの温度依存性,同位体効果,水素濃度依存性などの測定に成功し,温度依存性に顕著な折れ曲がりが観測された.またその様相が同位体および水素濃度により顕著に変化することを見出した.第一原理計算によりPd中の水素のポテンシャルと求め,そのポテンシャル上での水素の量子状態を計算した.8面体サイトが最安定であり,そのサイトでの第2励起状態に相当する準位が隣接4面体サイトと有意に混合していることが判明した.またこれまでに測定した中性子非弾性散乱の結果を合わせて検討した結果,実験と理論がよく一致しトンネル拡散を示唆すると結論された. 低速イオンビーム源,試料冷却装置,同時に試料の抵抗測定が可能な装置の整備を行った.抵抗測定のための電極として,金およびアルミ配線,ボンディングまたはインジウム接触,などを試み試料ごとの最適化を行った. 本年度整備したイオンビームによるQR法を利用して,低温での水素イオン照射によりPd中に準安定状態が形成されることを確認した.50K異常と同様に抵抗緩和を測定し,ホッピングレートの温度依存性,同位体依存性を測定した. Pt薄膜をスパッタにより作製し,低温でのイオン照射を行った.核反応法を用いて水素の深さ分布を測定し,水素が導入されることを確認した.水素照射によりPdとは異なる抵抗変化を示すことを見出した.水素脱離を阻害するための表面修飾を行い,その影響を調べた.
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今後の研究の推進方策 |
Pt薄膜について,水素イオンビームによる水素導入が確認できたため,今後抵抗緩和測定,緩和時間から水素ホッピングレート解析を行う.ホッピングレートの温度依存性,同位体効果,さらに水素濃度依存性の測定を行う.Pdと異なり,バルクのPtでは水素化物は不安定である.薄膜効果,基板との格子マッチングの影響などを考察する.必要に応じて,これまでに開発したチャネリング法を併用することで水素の格子間位置解析を行う.Pdと同様,第一原理計算により水素に対するポテンシャルを計算し,水素の安定位置と拡散径路を検討する.表面修飾効果については,Auおよび酸化物薄膜の効果を調べる. Pd薄膜の実験結果について,トンネル拡散におけるプロトン―電子結合の観点から考察を行う.結合定数に対するd電子の影響,非対称ポテンシャルの影響,などを考慮し,統一的な理解を目指す. 水素吸蔵性を持つVについて水素拡散の実験を行う.Vは酸化しやすい金属であることを考慮し,電子ビーム蒸着により膜厚の異なる薄膜を作製する.整備したイオンビームを用いて水素を導入し,その深さ分布を核反応法で評価する.同時に抵抗測定を行い,抵抗緩和の有無を確認する.Pd,Ptと同様に,抵抗緩和の緩和時間から水素ホッピングレート解析を行い,ホッピングレートの温度依存性,同位体効果,さらに水素濃度依存性の測定を行う.実験の進捗に鑑み,第一原理計算により水素に対するポテンシャルを計算し,水素の安定位置と拡散径路を検討する.
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