研究課題/領域番号 |
21H04667
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
町田 嗣樹 千葉工業大学, 次世代海洋資源研究センター, 上席研究員 (40444062)
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研究分担者 |
安川 和孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00757742)
大田 隼一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (70793579)
藤永 公一郎 千葉工業大学, 次世代海洋資源研究センター, 上席研究員 (90409673)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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キーワード | マンガンノジュール / 南鳥島EEZ / Nd・Pb同位体測定 / 海底音響反射強度 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究のこれまでのRe-Os同位体分析によって形成年代が判明し、代表的なFe-Mn酸化物層構造を示す試料について、NdおよびPb同位体分析を行なった。その結果、Fe-Mn酸化物層の形成年代の変化に対応して、特にNdおよびPb同位体比の値は現在(ノジュール表面)から過去(ノジュール内側)に遡って変動し、その変動パターンは南鳥島周辺の排他的経済水域(南鳥島EEZ)の中のマンガンノジュールフィールドにおいて遠く離れた地点において採取された試料いずれも同様であったことが明らかになった。一方、代表的な試料の組成マップデータセットに対する独立成分分析の結果、マンガンノジュールの生成に寄与した5つの起源成分を特定し、このうちマンガンノジュールに含まれる重要なレアメタルであるCoとNiの濃集には、Fe水酸化物成分、Mn酸化物成分およびブゼライト成分が直接寄与していることが明らかとなった。これらの同位体比および起源成分の違いは、Fe-Mn酸化物層の起源となった海水の組成の継時変化を示していると考えられることから、レアメタル濃集の環境・時代因子を明らかにするうえで重要な制約を与える結果である。 さらに、既存の海底音響反射強度データについて、昨年度の解析によって抽出された、資源探査の対象となりうるマンガンノジュール密集域に対応する反射強度範囲についての詳細解析を実施した。これにより、潜水調査での目視観察によって既に識別・認識されているマンガンノジュールの分布様態(粒径分布や分布密度)の違いとその分布をヒストグラム解析から客観的に評価できるようになったことに加え、これまで認識していなかった異なる分布様態(の変化)も存在する可能性があることが判明した。今後、密集域の中で特に資源開発に適した有望海域を絞り込むうえでの新たな知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、マイクロXRFを用いたマッピング分析を昨年度までに完了した試料に対して、マップデータの独立成分分析・詳細化学分析・顕微鏡観察の解析を進めた。詳細化学分析については、マッピング分析およびRe-Os同位体分析を行った試料に対して、Re-Os同位体分析と同様にマイクロドリルを用いて分析用粉末を採取し、Re-Os同位体分析点と1対1対応する形でのNdおよびPb同位体分析を実施した。特に、Nd同位体分析を従来よりも少ない量の分析用粉末で実施するために、従来の前処理(PbおよびNdの化学抽出作業)に加えてCeをカラム分離により除去する既存の手法を導入して本研究対象試料に適用した。これにより、マイクロドリルによる少量の分析用粉末においても、従来と同程度の精度で分析することが可能となった。その結果、研究実績の概要に記載したとおり、本研究対象海域における代表的なFe-Mn酸化物層の成長過程に対応する詳細なNdおよびPb同位体変動の様子を明らかにすることができた。 一方、既存の海底音響反射強度データ(dB値)とマンガンノジュールの分布様態(粒径分布や分布密度)の対応関係の概査については、反射強度ヒストグラムに対するピークフィット解析を進めると同時に、「しんかい6500」潜航調査によって得られた海底の画像について機械学習を用いて解析することを予察的に試みた。これにより、マンガンノジュールの分布様態(粒径分布や分布密度)を定量的に評価することが可能であることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、YK10-01、YK16-01、YK17-11C各航海によって得られた試料のマップデータの独立成分分析・詳細化学分析・顕微鏡観察などの分析・解析を継続して実施する。特に、独立成分分析および詳細化学分析(Nd-Pb同位体分析)では、昨年度までにRe-Os同位体分析を終えた各代表サンプルを中心に分析対象の試料を増やし、マンガンノジュール密集域内のローカルな地域バリエーションの有無を検証して、Fe-Mn酸化物の起源となった水塊の時空間変遷、つまり、レアメタル濃集層がいつどの様な組成の海水から形成される(された)のか(環境・時代因子)を、より高い空間分解能で明らかにする。 さらに、ピークフィット解析をベースとした既存の海底音響反射強度データ(dB値分布)の解析と海底画像の機械学習を用いた解析については、対象とする調査地点を南鳥島EEZ全域に拡張し継続して実施する。以上を踏まえて、資源探査の対象となりうるマンガンノジュール密集域における反射強度ヒストグラムと分布様態の対応関係を精査する。 以上の、化学組成データから得られるFe-Mn酸化物各層の化学的特徴、および反射強度データから得られるFe-Mn酸化物分布の地質学的特徴に加え、既存のCTデータ(令和3年度に解析済み)から得られるFe-Mn酸化物単体の物理的特徴を総括して、南鳥島EEZ内のマンガンノジュール密集域から具体的な有望海域を複数抽出する。令和5度に、それまでのデータをもとに未調査有望海域が高い資源ポテンシャルを有する海域を抽出し、そこを対象とした地質状況の観察・試料採取のための調査航海計画を立案したが、令和6度は、新たに追加されたデータや知見を踏まえ調査航海計画の更なるアップデートを図り、東京大学大気海洋研究所が行っている「深海潜水調査船支援母船よこすか共同利用公募」に応募し、令和7年度内での調査航海の実施を目指す。
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