研究課題
医学・分子生物学の進歩にもかかわらず、多くの癌患者の予後は未だ不良であることから、新規分子標的薬の登場が待たれる。多くの腫瘍で高頻度に発現異常を認め、癌の発生・進展に直接的に重要な役割を果たす癌抑制ドライバー経路は、格好の抗癌剤標的となる。それ故、p53経路、 PTEN経路、Hippo経路などの癌抑制ドライバー経路の制御機構は、全て世界的に注目されつつあるテーマである。これまで、これら経路上の主要分子は精力的に解析されてきたものの、その制御調節分子やその機構にはまだ不明な点が多い。本研究課題では、 癌抑制ドライバー経路の新制御機構を解明し、その制御機構を標的とする新しい抗癌剤開発につなげるための基礎研究を行うものである。令和4年度には、(1) p53経路:我々がin vitroで見出した分子Xは、in vivoでも同様にPICT1を安定化することでp53を制御すること、またその破綻は造血障害を呈すること等を明らかにした。(2) PTEN経路:これまでにPTEN不安定化分子3種類を見出しその作用機構を一部解明した。(3) Hippo経路:Hippo経路を強力に制御する分子を見出し、その作用機構の一端を解明した。またHippo経路の破綻によって内腔細胞性乳癌を基底細胞様乳癌に変化させることを見出し論文発表を行った。上記のようなことから、本研究は予定通りおおむね順調に進展していると考える。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度には、主に以下の研究を行った。(1) p53経路: p53を制御するPICT1の安定化分子Xを見出したため、その遺伝子Xの欠損マウスを作製したところ、PICT1の発現低下によるp53の増加と造血障害を呈することを見出した。(2) PTEN経路:PTENと結合し、PTENを不安定化する新分子を、sgRNAライブラリーを用いてスクリーニングし、SUMO化酵素2種類(A,B)と、脱ユビキチン化酵素1種類(C)の3種類を見出し、特に脱ユビキチン化酵素CはPTENを核移行させることでその安定化を示す可能性が高いことを見出した。(3) Hippo経路:siRNAライブラリーを用いて、分子YはVGLL4の発現を変化させることで、Hippo経路下流にあるTEADを強力に制御することを見出した。またTAZの活性化は直ちに乳癌を発症し、また内腔細胞性乳癌を基底細胞様乳癌に変化させる作用ももつことを見出して論文発表を行った。
今後は、(1) p53経路: 核小体ストレス時の分子Xを介したPICT1不安定化の生化学的詳細機構、また分子X破綻による造血障害以外の病態解析、(2) PTEN経路:PTENを不安定化する3分子の詳細な生化学的作動機構と、これらPTEN不安定化3分子の欠損マウスの作製と解析、(3) Hippo経路:分子YによるTEAD抑制機構の詳細な生化学解析と、分子Yトランスジェニックマウス作製による腫瘍発症・進展への効果の解明、などを検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件)
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