研究課題/領域番号 |
21H04979
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小島 武仁 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (40895314)
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研究分担者 |
松島 斉 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (00209545)
神取 道宏 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (10242132)
横尾 真 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (20380678)
田村 明久 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (50217189)
渡邉 安虎 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (60866250)
川越 敏司 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (80272277)
鹿島 久嗣 京都大学, 情報学研究科, 教授 (80545583)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | マーケットデザイン / 実用化 / マッチング理論 / オークション理論 / 東京大学マーケットデザインセンター |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、子どもを受け入れる保育園の決定や、従業員への業務内容の割当など、人やモノを「適材適所」にうまく配分するという社会の基本問題を解決するために、従来社会に存在しなかった新たな制度(=マーケット)の実行プロトコルを設計(=デザイン)する、「マーケットデザイン」の研究の推進である。更に、本研究ではマーケットデザイン理論を日本社会が抱える喫緊の課題解決に活用していく社会実装を進めることを重視する。 令和3年度は、経済学のアプローチによる社会課題の定式化、インセンティブの問題の検討に加え、これらの解決策について計算機科学、離散数学の観点から計算の実行可能性を検証した。これにより、財の分配問題における均衡の存在証明や、自動メカニズムデザインにおける新たな手法の開発などの画期的な成果をあげた。 理論研究に加えて、マーケットデザインの社会実装に着手した。自治体における保育園入所希望データを用いて、子どもを預けたい保護者の希望をより叶えるための入所決定アルゴリズムを検討し、多摩市のルールを改正した。ほかにも、企業の新入社員を適材適所に配属するアルゴリズムの導入や、予約枠の混雑が問題となっていたCOVID-19ワクチンの適正な配分のための政策提言・アドバイザリー、公立高校入試の公平性や再生資源取引市場の適正化を促すための政策提言など、喫緊の課題から人材育成・SDGs等の長期的な便益にかかわる課題まで、多様なトピックにおけるマーケットデザインの活用に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、理論面と実装面の双方において想定を超える進展を見せている。 理論研究面では、分野横断的なプロジェクト推進体制が功を奏した。大きな未解決問題を自動メカニズムデザインによって解決したほか、離散数学と経済学の関係を強める定理の発見により、これまでは「解決可能かどうかもわからない」状態であった問題について、実務上のポイントも考慮しながら解決策を検討できるレベルに達した。このように、文理融合的な課題解決方法を早期に確立できたことにより、申請時点の想定を上回る成果をあげることができている。 実装面では、東京大学マーケットデザインセンターとの協力のもと進めた保育園入所決定、研修医マッチングに関する実データを用いた実証実験が順調に進んでいることに加え、計画時点では想定していなかった企業内人材配置に関するプロジェクトが大きな進展を見せた。企業内人事は、新卒一括採用、定期異動の風習を持つ日本企業との親和性が高いことも手伝い、企業から広く受け入れられることに成功し、日本国内でのマーケットデザイン社会実装における最大の成功事例の一つとして認識され、人事担当者から多くの注目を集めた。ほかにも、COVID-19ワクチン接種においては国民の生命にかかわる予約混雑を解消するための方策を提案し、自治体等での実装につなげるなど喫緊の課題解決に貢献した。さらに、世間で議論されていた公立高校入試に対してマーケットデザインの観点からの問題点の指摘と解決策の提案を行うなど、周知活動においても成果をあげた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、マーケットデザイン研究における理論の発展と実装の拡大を進め、理論と実装の両輪による実践的な分野発展を目指す。マーケットデザインの理論的発展を目指す取り組みとしては、継続して経済学と関連分野の提携による新たな理論的発見を目指すだけでなく、これまでの社会実装プロジェクトから得られた実務上重要なポイントを解決するための方策を検討していく。 また、マーケットデザインの社会実装プロジェクトの規模を拡大し、国際的に類を見ない実証研究を推進していく。具体的には、複数の企業・自治体を対象とした大規模な人員配置実証プロジェクト、保育園入所制度のさらなる改善、パンデミックや災害などの不測の事態に備えるための制度の構築などを検討している。 さらに、上記のような大規模な社会実装に際し、必要に応じて経済学実験等を行い、解決すべき課題を分析、理論研究へのフィードバックを行う。これにより実装に伴うトラブルを未然に防ぎ、導入初期からの効率向上を目指す。 そのほか、研究者間の交流を目的とした大規模カンファレンスなどを通じて、個別に重ねている研究成果のコラボレーションを目指す。加えて、社会実装の協力者となり得る様々なビジネスパーソンにアウトリーチするためのシンポジウムなどを開催する予定である。
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