最終年度は昨年度に報告した論文の内容を補完するため、国内大学において人文・社会科学系の研究倫理審査体制の実態を解明することを目的とした調査を行なった。調査にあたっては研究補助者を雇用し、文部科学省でリストされている国内大学の公式サイトを通じて人文・社会科学系の研究倫理審査体制(委員会、研究倫理審査規程の有無)を全数的に調査した。ただし、大学によっては審査体制を学外には公開しないという方針もありえ、当該領域における研究倫理審査の実態を完全に反映できていないものではある。現在、調査結果の精査を進めており、国内約800大学中約280程度の機関では人文・社会科学系の研究に関する規程等の所在を確認できた。今後、この調査結果を取りまとめて論文として報告する予定である。また、こうした定量的調査を裏付けるものとして国内倫理委員会委員との意見交換、学会等学術集会の参加による情報収集、研究者らとの再現性問題に関する議論も行なった。とりわけ、そして本研究の核となる論述の追跡可能性traceabilityに関する検討をさらに進めるものとして示唆的であったのは、研究データや研究対象、研究手法の違いによる再現性問題の描かれ方の違いである。研究活動の成果発表において、研究プロセスの合理的再構成は行われる。その際、その再構成がいわゆるHARKingと呼ばれるような都合の良い成果発表とみなされてしまうかどうか(研究分野としてどこまでの再構成が許容されているか)については、詳細に踏み込めば踏み込むほど、単一の基準を見出すことが困難であることが明らかになった。研究期間終了後も、人文・社会科学系の研究の再現性問題を「研究における妥当な知識主張の構造とはどのようなものか」という認識論的かつメタサイエンス的な問いとして位置付け、研究を継続していくことを計画している。
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