研究課題/領域番号 |
21K00094
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研究機関 | 麗澤大学 |
研究代表者 |
花田 太平 麗澤大学, 外国語学部, 准教授 (90817355)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ジョン・ミルトン / 闘士サムソン / 痛み / 感情史 / 政治神学 / キリストの受難 |
研究実績の概要 |
今年度は、本務校の業務多忙のため予定されていた英国の現地調査を次年度に見送りつつも、オンラインでデータ化されている資料(EEBO)の活用により、調査を進めることができた。加えて、昨年度に調査した思想史の方法論に関する研究を発表するために学会報告および論文にする作業を進めた。 具体的には、主に痛みの感情史と近年のナラティブ論の視点から、処刑されたチャールズ1世のEikon Basilike(1648-49)と革命派ジョン・ミルトンによる反論Eikonoklastes(1649)に代表される、イングランド内戦期政治的パンフレットにおける王の身体的表象の資料を収集整理し、分析した。調査過程で明らかになってきたのは、18世紀の世俗化へと至る前提として、「痛み」の公的空間からの美学的な排除の成立があったという点である。それは同時に、「痛む身体」を個人の私的空間として獲得するプロセスでもあった。それは例えば「罪」という本来神と人間の関係性の記述によって表現されていたものが、個人の身体的な「痛み」という「医学モデル」的な記述に回収されることによって、中世的な政治神学--「キリストの受難」への参加という「痛みの共同体」として構想された統治体--が力を失う動因となった。それは、とくに革命後を生きるAndrew Marvellらの詩学において、言語の機能がトーン優位の詩から理性の道具へと変質するプロセスとして表現されている。今年度の成果は、17世紀の政治的動乱期において、これらの世俗化過程の多くが、(信仰の表現であっても、否認の記述であっても)「キリストの身体」をプラットフォームとして生起している点が確認できたことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年夏に予定していた英国での資料調査が、本務校の業務多忙のために実施できなかった。その分、オンラインリソースで補完できる調査は終えたが、目標となる対象のデータ収集が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の遅れを受けて、延長申請を行い受理された。2024年11月の日本ミルトン協会研究会にて報告を行う。また報告内容をもとに論文執筆を行う。 また時期は調整中であるが、年度内に英国で資料調査を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き、大学業務の増加のために、予定していた英国での現地調査を見送ることとなった。そのために、計上していた旅費等が執行できなかった。 次年度は、現地調査および学会での報告を計画している。
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