本研究は、近世後期に複数作成された物語目録のうち黒川春村『古物語類字鈔』を主たる研究対象とし、同書と春村前後の物語研究とを比較検討することにより、【Ⅰ.近世後期における中世王朝物語研究の実態】と【Ⅱ.Ⅰの明治期における国文学研究への継承・展開】について明らかにすることを目的とする。本年度は、Ⅱを中心課題とすると共に、Ⅰについても昨年度までの研究成果に基づき『雲隠六帖』『石清水物語』を中心に検討を行った。 (1)江戸から明治へ 江戸後期における物語目録の変遷を押さえ、『古物語類字鈔』がその集大成として位置付けられることを確認した上で、その特色のひとつである個々の物語の成立時期に関する考察が明治期の物語研究と深く関わることを明らかにした。具体的には、長谷川福平『古代小説史』および藤岡作太郎『国文学全史 平安朝篇』における春村の言説受容を分析し、展開の具体相を考察した。研究成果は国際学会にて口頭発表した。 (2)『雲隠六帖』 2021年度に入手した新出写本を前任校の岐阜大学から現在の所属機関である広島大学へ移管し、詳細な分析に着手した。同本は近世から近代にかけての『雲隠六帖』の具体的な享受を知りうる重要伝本である。合写された2作品の本文を手掛かりとした『雲隠六帖』の享受者層についての分析、および、作中の和歌を視点とした『源氏物語』享受史における位置付けを、学会発表した。また、本文異同に基づく『雲隠六帖』のジェンダー表象についての分析を論考化した(次年度の掲載決定済み)。 (3)『石清水物語』 2021年度に見いだした新出資料を手がかりとして、足代弘訓周辺の物語研究について分析・考察を進めた。
研究期間全体を通じて、当初の予定どおり黒川春村を中心とした江戸後期から明治期への物語研究の継承・展開を解明するとともに、新たな資料の発掘により物語研究・享受の具体相を分析し得た。
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