研究課題/領域番号 |
21K00322
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 将久 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (00298043)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 魯迅研究 / 翻訳 / 中国研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、魯迅テクストの日本語訳の持つ意味を文化翻訳の視点から問い直し、その意味を明らかにすることである。そのため、第一に、日本でこれまでなされてきた魯迅の翻訳について、個々の翻訳の細部を詳細に検討する。第二に、魯迅理解は日本の中国認識と重なってきたことに鑑み、翻訳の検討を通じて日本の中国認識の歴史的変遷を問い直す。第三に、その成果を国内外の研究者とくに中国本国の研究者と交流し、日本発の魯迅研究のあり方を模索する。 令和三年度は、増田渉の翻訳について、増田渉文庫での調査をもとにして深める予定であったが、コロナによる移動の制限のため、令和四年度に延期せざるをえなかった。代わりに、現在すでに収集済みの資料をもとにして、とくに研究目的第二点である日本の中国認識の問い直しと、第三点である中国の研究者との学術交流に力を注いだ。 成果としては、魯迅テクストの細部を論じることで革新的な魯迅研究を打ち立てた丸尾常喜の研究について、その意義と歴史的な位置を中国語で論じ、中国の研究者に紹介した「丸尾常喜和日本的魯迅研究」(『上海書評』)がある。また日本の魯迅研究の黄金時代と呼ぶべき一九五〇年代の魯迅研究について、代表的な研究者である竹内好、丸山昇、木山英雄を取りあげ、その関係性を論じて、中国の代表的な文芸誌である『文芸報』に発表した「1950年代日本的魯迅研究」がある。これらは中国の研究者と日本の魯迅研究について対話を深める意味がある。 また、直接魯迅を論じたものではないものの、魯迅および日本と中国の文化交流に関わる問題として、1920年代後半に日本に留学し、日本で独特の「哲学」を学び、それをもとに「革命文学」を提唱した彭康について、論文「革命文学論争における彭康」(廖・伊東・河合・山村編『東アジアにおける哲学の生成と発展:間文化の視点から』、法政大学出版局)を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた増田渉文庫での調査がコロナによる移動制限のためできなかったが、その代わり、日本の代表的な魯迅研究者である丸尾常喜の研究の意義、および一九五〇年代日本の魯迅研究について論文をまとめることができ、中国で影響力のある媒体に発表できた。このことは、本研究の目的の推進にとって大きな意義があると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
コロナの状況をみながら、まずは国内出張を再開し、令和三年度にできなかった増田渉文庫での調査を行う。その後、日本の魯迅翻訳において重要な地位を占めている増田渉の魯迅訳について、細部を検討する。他方で、中国の研究者との研究交流は、対面での研究会こそできないものの、文章の発表を通じて行えることが分かった。令和四年度には研究交流をさらに深める。
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