研究課題/領域番号 |
21K00936
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
山崎 彰 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (30191258)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フリーデルスドルフ学校 / ナトルプ教育改革 / 教員会議 / 教員養成学校 |
研究実績の概要 |
本年度は著書『近代ドイツ農村社会の誕生』(刀水書房、2023年2月刊)を刊行した。本書は、レカーン領(第1部)とフリーデルスドルフ領(第2部)を対象とする領地研究の総括である。本書では、ブランデンブルク州立中央文書館に収蔵される手稿史料(レカーン領文書とフリーデルスドルフ領文書)にもとづき、領地世界の変化を、「土地資源の利用」「階級形成と紛争」「メディアと教育」の面から、包括的に論述した。 このうち第2部第6章「近代村落学校の形成-領主・教員・農民にとっての学校教育」は、昨年度に寄稿した論文「ブランデンブルク近代農村学校制度の形成」『歴史評論』864号(2022年4月号)とともに、フリーデルスドルフでの学校改革の展開を論証しているが、後者では検討できなかった以下の論点を詳細に分析している。即ち本書は、18世紀から19世紀前半の土地資源利用の高度化(農地の集約的利用)がどのように進展したのか、また農村の階級形成(農民の領主制からの解放)において、土地開発の成果がどのように階級間で分配されたのかを検討していたが、これと学校教育の発展が密接に関係していたことを、論証しようとした。特に19世紀はじめには畜産市場でフリーデルスドルフ農民も積極的に関わったこと、1840年頃には農民も農業協会(共進会)に参加し始め、農法改良への関心が彼らにおいても高まっていたことを論じたが、こうした農業をめぐる動向が、農民をして学校教育に積極的にさせた背景にあったことを論証した。さらにフリーデルスドルフでは領主制の廃止時に領主側と農民側の対立が高じたが、学校運営への農民参加の強化にも、こうした階級形成の展開が影響を与えていたことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は『歴史評論』864号掲載の論文と著書『近代ドイツ農村社会の誕生』によって、フリーデルスドルフ領の学校改革に関しては、その詳細を明らかにすることができた。しかし2021年度に続き2022年度も、ドイツでの調査ができなかった。このため文書館での新たな史料発掘は今年度においても全く進行しなかった。ブランデンブルク全体の改革の動向は、入手済みの史料や文献を分析しながら、特に1810年代における各地の「教員会議」活動の分析とともに、フリーデルスドルフの学校が属すフランクフルト学校管区の視学官のまとめた報告書によって、学校改革の課題の把握に努めている。著書においては、学校改革は、教員養成制度の整備と、教員の資格の整備があってはじめて発展できることが確認できたが、これらについて今後、詳細を調査するため、次年度のドイツ渡航でポツダム教員養成学校の教育課程や卒業生の赴任先などについての、未公刊史料の入手の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には昨年度に確認した以下の方針によって今年度も研究を進める。 ①これまでフリーデルスドルフの学校制度の整備を、領主マルヴィッツの活動に最大の焦点を当てて、彼の改革方針と、領民のこれへの反応を中心に検討してきた。確かにフリーデルスドルフの学校改革において初期の展開では領主の役割が大きかったが、1810年代以降は、むしろポツダム県参議ナトルプの教育政策の影響で生まれた教員会議の意味が大きかったことを、フリーデルスドルフの事例で明らかにできた。このため、本年度は主にフランクフルト学校管区の教員会議活動に焦点を当てながら、学校管区での学校会議の運営実態を検討する。 ②学校改革にとって教員の養成制度の整備は決定的に重要であった。18世紀にはベルリンに教員養成学校が開設されていたが、研修生たちは都市学校の教員となる者がほとんどで、村の学校教師は、たいてい生家で父親から指導法を教授されていた。村の学校教師は1810年代には教員会議に設置された講習会で教科教授法の研修を受けたが、このころはまだ農村教師のための専門の教員養成学校は設立されていなかった。今後は、特にポツダムの教員養成学校の設立過程と、教育内容、さらに卒業生の赴任先などを分析し、村落学校発展へのその影響関係を明らかにしてゆく予定である。このためには、枢密プロイセン文化財団文書館(ベルリン市)における史料調査を今年度は行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では2022年度にはドイツでの文書館調査が予定されていたが、新型コロナウィルスのまん延が収束しなかったため、実施が困難となった。しかし2023年にはいって、ワクチン接種の進行や感染状況の低下などで、海外渡航が容易になった。このため2023年度にはドイツでの調査を実施し、これに助成金を使用する。
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