研究課題/領域番号 |
21K01080
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
深田 淳太郎 三重大学, 人文学部, 准教授 (70643104)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 貝殻貨幣 / キャッシュレス決済 / 負債 / 投資 |
研究実績の概要 |
モノとしての貨幣を伴わない貨幣の使い方について、(1)貝殻貨幣などの自生通貨についてのフィールド調査、(2)ビットコインなどのIT技術を用いた新たな暗号資産についての文献研究、(3)文化人類学および経済学における貨幣という存在についての先行研究の整理を実施した。 (1)2022年8月13日から9月3日まで、パプアニューギニア東ニューブリテン州ラバウル近郊において、現地で用いられている貝殻貨幣タブについて、そのモノとしてのやり取りを伴わない使い方について調査を実施した。基本的に貝貨タブは、モノそれ自体として価値を帯びており、人前にモノとして姿をあらわすことで役割を果たす。ただし、モノとして人前に出されずとも所有者のある種の権威を表したり、あるいはモノとして外に出されても、見せられるだけでやり取りされずに取引によって得られるような効果を得ることがある。儀礼を中心とする様々なやり取りにおいてそのような「使わない」使い方にどのような方法があるのかについて、参与観察とインタビューを通してデータ収集を行った。 (2)ビットコインが開発されてきた経緯、特に開発の過程で重要な意味をもった、「デジタル地金主義」と「インフラ相互主義」という二つのスローガンに注目して文献の読み込みおよび整理をおこなった。 (3)昨年度から引き続き「負債」概念に注目して、デヴィット・グレーバー『負債論』『価値論』、アグリエッタ&オルレアン『貨幣主権論』、ブルーノ・テレ『社会的事実としての貨幣』などを中心に、垂直的で中心をもつ社会権力の生成と、人々の間の水平的な取引による秩序の生成の関係に注目し、その中に貨幣をどのように位置づけることができるのかについて考察をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度まで2年間新型コロナウィルスの感染拡大により、予定していたパプアニューギニアでのフィールドワークが実施できなかったが、今年度は予定通り3週間の調査を実施することができた。短い調査期間ではあったが、貝貨を「使わない」使い方について、調査の中で具体的に事例を集めることが出来たことは大きな収穫となった。 また文献研究においても、キャッシュレス決済についての論文、貝殻貨幣についての論文を一本、また負債と貨幣の関係についての学会発表を一本、成果として出すことが出来た。 いずれも昨年度、コロナ禍で成果として表に出なかった分を取り戻すことが出来た。全体の計画としては、予定通りとはいかないものの、おおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
この二年間で進めてきたフィールド調査、文献研究をよりいっそう推進していく。 2023年7-9月にかけてパプアニューギニアに滞在し、フィールド調査を実施し、「使わない」貝貨の使い方について、より多方面から情報を収集する予定である。 また文献研究については、今年度特に進めていきたいのは社会的権力あるいは秩序の生成と貨幣の関係についての文献読解である。特にデビッド・グレーバーとマーシャル・サーリンズ共著の"On Kings"(2017)は重要な論点を含む文献であり、邦訳も視野に入れて精読していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
一年目に計画していたパプアニューギニア渡航が新型コロナウィルス感染拡大で実施できなかった分を今年度に持ち越した。今年度は概ね予定通り調査を実施できたが、一年目で実施できなかった分を取り戻すには至っていない。三年目はここまでの遅れを取り戻すための長めの調査を予定している。
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