研究課題/領域番号 |
21K01088
|
研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
眞嶋 亜有 明治大学, 国際日本学部, 専任講師 (40468559)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 近現代日本 / 生活空間 / 西洋化 / 日本化 / 土足 / スリッパ / 心性 / 風土 |
研究実績の概要 |
初年度は、近現代日本の生活文化の西洋化と日本化をめぐる諸相として、明治期以降の生活空間の西洋化に焦点を当てた。とりわけ、訪日・滞日外国人の滞在するホテルの誕生から、土足(一足制)と靴の脱ぎ履き(二足制)をめぐる諸問題を具現化したスリッパの台頭、ホテルにおける土足の是非、公的空間や私的生活空間における二重生活や生活改善、そして敗戦・占領期における占領軍による接収における土足問題に至るまで、土足(一足制)と靴の脱ぎ履き(二足制)を近現代日本の生活文化における西洋化と日本化の拮抗を指し示す表象として、社会・文化史的アプローチから研究を行った。明治以降、あらゆるレベルでの西洋化を推進してきた日本において、土足の拒否すなわち靴の脱ぎ履きは、日本の心性を指し示す生活文化として本研究課題の重要な一側面を担っているため、明治から戦後に至る通史的な資料調査と分析を行った。とりわけスリッパは和洋折衷の二重生活と不可分な生活用品として日本で独自の展開を見せていくが、土足の拒否による二足制によって近現代日本の足白癬(水虫)は国民的に普及していった経緯がある。それは清潔概念をめぐる日本の心性と湿潤な風土における生活様式の西洋化、さらにはその日本化の複合的なプロセスから生まれた有機的な展開であった。本研究は、その複合的かつ有機的な歴史的展開がなされた生活空間に焦点を当てることで、近現代日本の心性の構造と系譜を明らかにすることにある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はコロナ禍により国内実地調査並びに国外での実地調査が困難であったため、主として資料調査を行った。1913年に創刊したジャパン・ツーリスト・ビューローの『ツーリスト』のシリーズや、1948年創刊の国際観光事業研究会による『国際観光』シリーズ、1950年創刊の『Hotel Review』シリーズほか、戦前から戦後に刊行された文藝春秋をはじめとする論壇誌、明治以降の新聞記事における土足・スリッパをめぐる描写と表象などを多角的に調査した。とりわけ大正期以降盛んになる国際観光をめぐる専門雑誌において、いかにホテルが日本における生活空間の西洋化を体現したものでありながら、またそうであるが故に露呈される「土足」をめぐる戸惑いや異文化間接触をめぐる諸問題について通史的に資料調査を行った。コロナ禍により実地調査やインタビュー、参与観察は困難であったが、国内でできる資料調査においては概ね計画通りに進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、新型コロナウィルス感染状況が緩和されるに従い、初年度に資料調査と並行して行う予定であった実地調査並びにインタビュー等を推進することで、初年度の調査研究を立体的に捉え複眼的視座を構築する。例えばその一つとして、近代日本において西洋化を体現せねばならなかった華族の中には、前田侯爵邸のように、湿潤な風土に合致した造りとは言い切れない英国式洋館を東京に建て、前田家の人々は寝室でのみスリッパを着用し、それ以外は土足を貫いたとされる。本来ならば日本の伝統文化を継承していく、また日本を代表する社会的上層であった華族は、日本が日本であるために日本を否定せねばならなかった近代日本の自己矛盾を体現するかのように、生活レベルでの西洋化を体験せざるを得なかった人々であった。その諸相は回顧録や日記等にも記されることもあるが、生活空間と密接な関わりを持った女性達の声を中心に、諸資料調査や旧華族の取材等により収集し分析していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染状況による諸制限から次年度使用額が生じたが、2年目に当たる今年度は、感染状況の緩和により初年度に計画されていた国内での実地調査・インタビュー等を2年目の研究計画に加えた形で行うことで、研究費を使用する計画でいる。
|