研究課題/領域番号 |
21K01133
|
研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
杉本 篤史 東京国際大学, 国際関係学部, 教授 (60267466)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | アイヌ語 / 民族継承語 / 言語権 / 言語法 / 言語政策 / 民族語教育 |
研究実績の概要 |
アイヌ語および琉球諸語の民族継承語としての言語権について考察を深めるために、アイヌおよび琉球諸民族のアイデンティティや言語継承に関する実態に関する先行研究、ならびにアイヌ民族問題に関する憲法学的研究文献、諸外国における民族継承語政策に関する法令や研究文献を調査した。民族継承語問題に関する憲法学的文献は、残念ながら近年はほとんどないことが判明した。また、琉球諸語については、言語学分野でその継承や保存についての議論は活発であるが、言語政策や言語法という視座からの先行研究は多くないことが判明した。ただし、これら先行研究の調査を通じて、同じく国内少数言語である日本手話をめぐる問題について、民族継承語としての権利という側面を考察するきっかけを得ることができた。また、在日コリアンの民族継承語に関する問題ついての先行研究の知見を、アイヌ語や琉球諸語に関する問題を検討する視座に応用できないかの検証を進めている。 フィールドワークとして、北海道の博物館や民俗資料館などにおいて、アイヌ語がどのように表象されているかを可能な限り調査した。COVID-19問題のため、十分な調査が行えなかったが、2021年8月16日~21日に、北海道内の日高山脈博物館、日高町立日高図書館郷土資料館、新冠町郷土資料館、新ひだか町博物館、新ひだか町アイヌ民族資料館、浦河町立郷土資料館、様似郷土館、えりも町郷土資料館を、同年11月4~6日に、釧路市立博物館、音別郷土資料展示室、浦幌町立博物館、帯広百年記念館内博物館、帯広市生活館(ふくろう館)を調査した。展示のほとんどにおいてアイヌの文化や民俗、自然との関りが焦点となり、政治経済問題について触れるものは少なく、教育とりわけ民族語教育に触れるものは皆無であった。 以上から本研究の中核をなす言語権の国内法化のための課題として、民族継承語に関する国内の状況を再確認することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19のため、現地調査が十分にできなかった。また、文献調査においても、アイヌ語や琉球諸語に関する文献は、地方出版社から刊行されているものが多く、出版不況の折、絶版などにより入手困難なものがいくつかあった。他大学等図書館蔵書についてもOPACによる貸出にCOVID-19による制限があったため、十分な資料収集ができなかった。ただし、遅れは軽微であり、2022年度において取り戻すことが十分可能であると考えている。2022年度ないし2023年度には、民族継承語に関する言語権について、先行研究や国際比較の視座を踏まえた法学的課題について検討する研究論文を発表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
アイヌ語および琉球諸語、在日コリアンの民族継承語について、引き続き社会的表象のあり方についてフィールド調査を行うとともに、社会言語学を中心とする関連分野の研究動向をフォローしつつ、それぞれの民族継承語としての言語権の国内法化のための課題を精査し、解決策を模索しつつ、また、諸外国の民族・言語問題の研究者らと研究交流を行い知見を交換したうえで、日本国の状況に即した具体的な制度設計・法案のあり方について提言を行う予定である。 COVID-19の動向によっては、北海道や沖縄でのフィールドワークおよび現地研究者との交流の機会が制限される可能性があるが、リモート会議などの手法で可能な限り補うつもりである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19のため、現地フィールドワークを予定通り行うことができず、その分に計上していた支出がなかったため、次年度繰越額が生じることになった。2022年度はこの繰越金を加味してフィールドワーク計画を再検討・再編成し、沖縄における調査も実施する予定である。
|