研究課題/領域番号 |
21K01133
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
杉本 篤史 東京国際大学, 国際関係学部, 教授 (60267466)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 言語権 / アイヌ語 / 琉球諸語 / 危機言語 / 言語政策 / 言語法 / 言語復興 / 民族語教育 |
研究実績の概要 |
北海道の博物館や民俗資料館などにおいて、アイヌ語がどのように表象されているかを可能な限り調査した。2023年8月8日~14日に、道東アイヌ関連施設資料調査(美幌博物館、網走市立郷土博物館、北海道立北方民族博物館(網走)、斜里町立知床博物館、弟子屈屈斜路コタンアイヌ民族資料館、阿寒湖アイヌコタン、標茶町博物館ニタイ・ト、釧路文学館、根室市歴史と自然の資料館)を、同年10月7日~9日に、昨夏天候不順により調査を断念したアイヌ関連施設(オホーツクミュージアムえさし、名寄市立北国博物館)を調査した。各施設の展示の多くは、アイヌ自身により運営されている施設を除けば、近代以降のアイヌをめぐる政治経済社会問題について触れるものは少なかった。ただ、北海道立北方民族博物館(網走)では、北欧や北米大陸の北方民族との対比や連帯への言及があり、貴重な資料収集を行うことができた。 これまでの資料収集成果をもとに、2023年12月2日・3日に愛知県立大学で開催された「第11回多言語社会研究会大会」に参加し、「権利論から見た『マイノリティ言語の保存』問題」と題する研究発表を行ったほか、スペインやフランスにおけるマイノリティ言語の保存問題について、当事者研究者らから貴重な知見を得ることができた。また、2024年3月23日・24日に琉球大学で開催された「第15回琉球継承言語研究会」に参加し、「言語権と『歴史的責任』の結節点としての言語法政策」と題する研究発表を行ったほか、琉球諸言語に関する復興運動を焦点においた様々な研究報告に接し、貴重な知見を多数得ることができた。 以上の研究発表および研究交流で得られた知見をふまえて、現在、2024年10月刊行予定の『ことばと社会』26号(三元社)の特集論文として、「言語権論から見た『マイノリティ化された言語の保存』問題」と題する研究論文を投稿し、現在、査読審査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の進捗がやや遅れている理由としては、2022年度までの新型コロナウィルスによる資料収集活動への影響や、天候不順によるフィールドワークの予定変更などがあったほか、本申請課題は公法学分野としては先行研究がほとんどない課題であることから、近隣諸分野(社会言語学、文化人類学、先住民族研究、マイノリティ研究など)の研究成果を参照しつつ行う必要があるため、申請者の検討理解に時間を要している面も大きい。ただし、これらの近隣諸分野の研究者との親交が2023年度を通じてさらに増え、専門的知見の提供や意見交換もできる機会が大幅に増え、一定の中間的報告の機会も複数回得ることができた。 これまでに、アイヌ語および琉球諸語についての基礎的な資料の収集もできているので、概ね予定通りに最終年度である2024年度に、研究成果をまとめることができると予想している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2024年度は、2023年度に引き続き、アイヌ語および琉球諸語、在日コリアンの民族継承語について、その社会的表象のあり方についてフィールド調査を行うとともに、社会言語学を中心とする関連分野の研究動向をフォローしつつ、それぞれの民族継承語としての言語権の国内法化のための課題を精査し、解決策を模索する。また、諸外国の民族・言語問題の研究をふまえて、日本国の状況に即した具体的な制度設計・法案のあり方について提言を行う予定である。 本研究課題の最終年度であるため研究課題をまとめるためにも、国際法上の言語権論から見た日本の少数言語政策の問題点に関する研究論文を執筆公表するほか、日本国内の少数言語話者やその研究者らによるシンポジウムの開催を検討している。 また、本研究課題をふまえて、新たな課題を設定し、本研究をさらに深化させていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度までのコロナ禍の影響により、研究計画に変更が必要となったこと、また、十分な研究活動を行うため、研究期間を1年延長することにした。そのため、2024年度分研究経費として、次年度使用額を計上した。 翌年度分使用計画として、本課題研究の最終年度となる2024年度は、北海道内で未調査の地域におけるアイヌ表象のフィールド調査を行うとともに、琉球諸語の復興運動ならびに在日コリアン継承語に関する研究をすすめ、これらの知見に基づき、研究成果を研究論文および研究報告会ないしシンポジウムの形で公表する予定である。
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