研究課題/領域番号 |
21K01217
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
牧 佐智代 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (40543517)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 法と経済学 |
研究実績の概要 |
本研究は、市場構造の中で消費者を把握するという視点の導入により、(1)市場において匿名性をもったまま割合的に存在する認知バイアスを有した消費者を捕捉し、(2)こうした一部の消費者にのみ有効に働きかけをなすよう設計・構築された業者の勧誘・商品・契約の構造を明らかにし、(3)当該勧誘手法・契約から損失を被る認知バイアスを有した消費者と認知バイアスを持たず当該契約からむしろ便益を被る消費者という二つのグループに及ぼす規制の影響を特定し、損失を被る消費者を保護しつつ、社会的厚生を改善する適正レベルでの法的規制を設計することを目的としているところ、2021年度は、販売信用市場を対象として主に(2)および(3)の論点を検討した。 その過程で、英国の消費者信用市場における、「Rent to own(RTO)」に対する法改正・法設計の議論状況を参照した。その結果、RTOは購入選択権付きレンタルであるところ、英国では、商品を現金一括購入するだけの資金を持たず、かつ、割賦販売等の販売信用(購入代金の分割払い・立替払い)や消費者金融(購入代金分を借金する)による信用供与を得られない低所得者層にとって、これら信用供与に代替する手段として用いられていることが分かった。その上で、英国での問題は、RTOによる消費者の支払い総額が、当該物の一般小売価格の数倍に上るため、あまりに高い信用コストを徴収されているという点にあり、それを改善するために、英国FCAは、消費者が支払う総費用額が、現金一括払いの場合の購入代金の2倍を上回ってはならないという上限規制を設けたことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英国の販売信用市場の法改正・法設計をめぐる状況を参照したことによって、我が国における販売信用市場でも問題となりつつある後払い決済(BNPL)や、サブスクリプション市場にまで、同様の問題が存在することを明らかにすることができ、次年度に検討対象とすべき市場を画定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
英国においてRTOが信用供与に代替する手段として用いられているのと同様の問題が我が国でも起きつつある。すなわち、環境省が高齢者の住居へのエアコン設置を促進するためにサブスクリプション方式を後押しするという政策を始めたが、これは初期費用が少なくて済むというサブスクリプション方式のメリットに着眼して、必需品の購入が経済的に困難な者に、購入に替わる利用という形態で当該物を入手することを可能にするものであり、英国RTOと同様に購入に係る信用供与に替わる手段としてサブスクリプション契約が機能している。しかし、サブスクリプション契約は、購入に比べて初期費用が少なくて済むメリットがある一方で、利用期間が長くなるとかえって総費用が高くなる場合もあり、FCAのRTO市場に対する上限規制導入という施策は参考になろう。従って、2022年度は、サブスクリプション市場を対象として法規制の検討を進める。
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