研究課題/領域番号 |
21K01262
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
上田 真二 関西大学, 法学部, 教授 (00359770)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 金融商品取引法 / 不公正取引 / インサイダー取引 / 偽計 / ディスクロージャー規制 |
研究実績の概要 |
本研究は、金融商品取引法157条以下における不公正取引規制の適用の実態を調査し、具体的な不公正取引規制と一般的な詐欺禁止規定(同法157条)との関係を検討することで、一般的な詐欺禁止規定の意義を考察することを目的とするものである。 今年度は、文献・資料の調査および収集と実態調査を進めながら、2件の研究報告を行い、不公正取引のうちインサイダー取引規制に関わる2本の論考を著した。 文献・資料については、わが国の金融商品取引法に関わる文献だけでなく、EU法・アメリカ法の文献も収集した。 研究報告については、2021年6月に京都大学商法研究会において、同年8月には早稲田大学商法研究会において、それぞれ報告を行った。前者では、IHIによる有価証券届出書の不実記載に関わる最高裁平成30年10月11日判決を扱い、金融商品取引法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額(発行者の賠償責任額の算定)の問題を検討した。後者では、モルフォ株式をめぐるインサイダー取引の課徴金納付取消事件(東京地裁令和元年1月26日判決)を扱い、重要事実の判断基準に係る問題を検討した。 2本の論考については、先のモルフォ事件に係る研究報告をもとにしたものを2021年11月に、金融・商事判例1628号2頁に発表した。もう一つは、COVID-19をめぐって政府が保有する情報を知って行われたアメリカの議会関係者による株式取引の問題を扱ったものであり、2021年7月に、ビジネス法務21巻9号134頁に発表した。これは、インサイダー取引における重要事実のうち、外部情報に関わる問題を扱ったものといえる。しかし、政府が保有する情報を対象としている点、アメリカの最新の状況の紹介およびアメリカ法(特にSTOCK法)との比較を行った点で、これまでにない研究であると位置づけることもできる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、3年の期間を設定しているが、おおむね1年半ずつ前半と後半に分けて、研究を進めることを想定している。具体的に前半(当初1年半)は、文献・資料の収集を進めながら、不公正取引規制の個別具体的な規定が解釈や立法により独自の進化を遂げていることを示す期間としている。 今年度は、文献・資料の収集をはかりつつ、2021年6月および同年8月に研究報告を2回行い、研究成果として2本の論考(①モルフォ株式をめぐるインサイダー取引の課徴金納付取消事件に関する判例研究、②政府保有の未公開情報をめぐる日米インサイダー取引規制)を著すことができたこともあり、全体としては、おおむね順調に進展していると評価することができる。2本の論考は、いずれも不公正取引規制の解釈を扱ったもので、前者の論考は、わが国の金融商品取引法166条に関するもの、後者の論考は、アメリカ法を中心にわが国の法規制についても検討したものである。 ただ、コロナ禍にあったため、外国出張だけでなく、国内出張も控えなければならない状況であった。したがって、金融庁における審判の傍聴や資料収集といった活動で一定の制約が生じた。ただし、ネットを通じて審判記録を入手したり、資料収集を行うことで、カバーできた面もあり、研究の進捗に大きな支障を来たすほどではなかったといえる。 金融庁における審判の傍聴などは、(感染状況に十分注意する必要があるものの)次年度に行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、計画を変更することなく、今後も当初の予定通り進めていく。 今後の具体的な方策としては、①これまでの裁判例や審判事例に着目して、わが国の具体的な不公正取引規制(とくに金融商品取引法158条が規制する「偽計」)と一般的な詐欺禁止規定との関係を明らかにし、②EU法における一般的な詐欺禁止規定について調査を行い、その実態を明らかにしたい。 ①については現在、偽計の意義と機能に着目した論文を執筆中であり、次年度中に公表することとしたい。②については、EU法に関する文献・資料をさらに収集しつつ、論文執筆の準備を進めていきたい。より具体的には、①の研究を踏まえて、EU法におけるMarket Abuse Regulationを研究対象に、同法の一般的な詐欺禁止規定を検討することとしたい。 また、次年度は、今年度コロナ禍の影響があり、できなかった(金融庁における)審判の傍聴を行いたい。近時、規制当局による不公正取引規制の摘発が活発になり、課徴金納付命令等の処分が下される事例が増えたこともあり、本研究課題では、法規制の実際の運用を確認しつつ、不公正取引規制の研究を更に深化させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、25万円余りの未使用が生じたが、その主たる費目は、旅費に関するものである(旅費以外の物品費等についてはおおむね予定通り使用した)。今年度も引き続きコロナ禍にあったため、外国出張だけでなく、国内出張も控えなければならない状況であった。したがって、本研究課題で予定していた外国での資料収集や調査が行えなかっただけでなく、国内でも金融庁における審判の傍聴や資料収集といった活動を控えることとなり、研究の遂行に一定の制約が生じた。 次年度は、旅費を活用することで研究をさらに充実させたい。具体的に(感染状況には留意する必要はあるものの)金融庁において行われる審判の傍聴など、東京への出張を行いたいと考えている。外国での資料収集等については、より慎重にならざるを得ないが、機会があれば訪問したい。
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