研究課題/領域番号 |
21K01262
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
上田 真二 関西大学, 法学部, 教授 (00359770)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 金融商品取引法 / 不公正取引 / インサイダー取引 / 偽計 / ディスクロージャー規制 / 金融商品取引業者 |
研究実績の概要 |
本研究は、金融商品取引法における不公正取引規制の関係と構造を明らかにするものである。具体的には、金融商品取引法157条以下における不公正取引規制の適用の実態を調査し、一般的な詐欺禁止規定(同法157条)と同条以下の各不公正取引規制との関係を検討することで、一般的な詐欺禁止規定の意義を考察することを目的とする。 今年度は、文献・資料の調査および収集と実態調査を進めながら、2件の研究成果を公表した。前者については、主にわが国の金融商品取引法158条の偽計に関わる文献・資料の調査および収集を行った。具体的には、裁判例および審判例、さらには、証券取引等監視委員会が公表している各種の情報を収集した。あわせて、収集した文献等の分析も行い、偽計に関する論文の執筆を進めた。 後者の研究成果については、まず、「金融商品取引法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額と民事訴訟法248条の類推適用」と題する研究を公表した。これは、金融商品取引法18条1項および19条に基づく損害賠償制度の趣旨について判示した、最高裁平成30年10月11日判決の判例研究である。本研究では、特に発行市場と流通市場の発行会社の損害賠償責任の相違について、本判決を受けていかに考えるべきかを検討した。 次に、「有価証券届出書に虚偽記載がある場合の元引受金融商品取引業者の責任」と題する研究を公表した。これは、金融商品取引法21条1項4号に基づく元引受金融商品取引業者の損害賠償責任につき、同条2項3号の免責事由の解釈を示した、最高裁令和2年12月22日判決の判例研究である。本研究では、同判決が元引受金融商品取引業者の調査確認義務の位置づけや法的性質について、十分に説明されていないことを指摘し、本来的に元引受金融商品取引業者には審査義務が課されていることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、3年の期間を設定しているが、おおむね1年半ずつ前半と後半に分けて、研究を進めることを想定している。具体的に前半(当初1年半)は、文献・資料の収集を進めながら、不公正取引規制の個別具体的な規定が解釈や立法により独自の進化を遂げていることを示す期間としている。残りの1年半については、金融商品取引法157条が一般規定(あるいは包括的規定)と理解されているが、同条にそのような機能や役割は見られず、極めて限定的な規定であること、現行の金融商品取引法における不公正取引規制が(実質的には一般的規定を欠き)個別具体的な規制により多元的に構成されているという構造を明らかにすることを目指している。 今年度は、文献・資料の収集の面では、わが国の文献等については一定の成果があったが、EU法関連の文献等についてはあまり収集できなかった。 研究成果の面では、2件の成果を公表することができた。いずれも最高裁判決を扱ったもので、金融商品取引規制に関わる重要な論点に触れたものであった。また、同法158条の偽計に関する研究および論文執筆を進めた。しかし、上記に示した、金融商品取引法157条に関わる研究は十分に進めることができなかった。これは、2件の研究成果の公表と偽計に関する研究を優先し、それらに時間を割くことになったからである。 以上から、本研究課題の進捗状況については、やや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の進捗状況については、(先にも述べた通り)やや遅れていると判断しているが、研究計画自体は大きく変更することなく、今後も予定通り進めていく。すなわち、文献・資料の収集および調査を行い、収集した文献等の分析を経て、論文等として公表するという形は変えない。 今後の研究の具体的な推進方策としては、まず、①これまでの裁判例や審判事例に着目して、金融商品取引法158条が規制する「偽計」の意義等を明らかにする論文を早急に公表する。これは今年9月までに行う。 次に、②EU法における一般的な詐欺禁止規定について、引き続き同法に関する文献・資料の収集を行う形で調査を行い、その構造を明らかにしたい。具体的に論文執筆の準備を進めていく。その際、上記①の研究成果も踏まえて、EU法におけるMarket Abuse Regulationを対象として、同法の一般的な詐欺禁止規定を研究することとしたい。 さらに、③金融商品取引法157条の機能や役割に関する研究(一般規定(あるいは包括的規定)と理解されているが、必ずしもそうではないといえること)について、文献・資料等の収集を行いつつ、調査および研究を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度(当該年度)、77万円余りの未使用が生じたが、その主たる費目は、旅費に関するものである。今年度も引き続きコロナ禍にあったため、外国出張だけでなく、国内出張も控えなければならない状況が続いた。したがって、本研究課題で予定していた外国での資料収集や調査が行えなかっただけでなく、国内でも金融庁における審判の傍聴や資料収集といった活動を控えることとなり、研究の遂行に一定の制約が生じた。また、外国文献・資料の収集および調査も十分にはできなかった。 次年度は、旅費を活用することで研究をさらに充実させたい。具体的に(感染状況には留意する必要はあるものの)金融庁において行われる審判の傍聴など、東京への出張を行いたいと考えている。外国での資料収集や意見交換は、慎重に見極めつつ機会があれば実施したい。外国文献・資料(特にEU法関連の文献・資料)の収集・調査も積極的に進めたい。
|