研究課題/領域番号 |
21K01395
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
荒渡 良 同志社大学, 経済学部, 准教授 (20547335)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 財政ルール / 国債発行上限 |
研究実績の概要 |
国債発行に関する財政ルールについての理論研究はここ10年ほどの間に多くの蓄積がなされてきたが,その殆どが「政府は財政ルールを必ず遵守する」という前提の上で分析されてきた.しかし,IMFの調査によると財政ルールが守られる頻度は全体の半分程度しかなく,財政ルールの逸脱問題も考慮した理論モデルの構築・分析が必要とされていた. そこで令和3年度は,政府に「ルールを無視する」という選択肢がある場合の国債発行ルールについて,2つの理論モデルを構築・分析した.どちらのモデルも有権者が現在バイアス(負担を先送りする誘因)を持つために過大な財政赤字・国債発行が生じるような状況を考えている.国債発行に上限を与えるような財政ルールを仮定し,どのような状況下において財政ルールからの逸脱が生じるのかについて分析を行った. 一つ目のモデルは日本や米国など,独自の財政ルールを設けているような国を対象としたモデルである.分析の結果,財政ルールが外生的に与えられている場合には,現在バイアスが強い国ほど財政ルールからの逸脱が起きやすいことが明らかとなった.また,経済厚生を最大化するような国債発行上限についても分析をしたところ,現在バイアスが十分に弱い国では国債発行上限をゼロにすることが望ましく,現在バイアスが十分に強い国では正の国債発行上限を課すことが望ましいとの結果を得た. 二つ目のモデルは欧州連合のように複数の国で単一の財政ルールを定める「国際協調ルール」に関するものである.国際協調ルールは各国が相互にルールの遵守状況を監視するため,ルール逸脱の費用が高く,ルールが遵守されやすくなることが期待されている.しかし分析の結果,各国に同じ水準の国債発行上限が課されるために,現在バイアスが強い国にとってはルールが厳しすぎるものとなり,むしろ財政ルールからの逸脱を誘発してしまうという結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた理論モデルの分析が順調に進んでいるため.しかし,ルールを逸脱した際のペナルティに関する分析はまだ進んでおらず,当初の計画以上に進展しているとは言えない.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度には逸脱も考慮した財政ルールの理論モデルを構築・分析した.しかし,財政ルールを逸脱した場合のペナルティは外生的に与えられており,特に分析の対象ともなっていない.例えば欧州連合ではルールを逸脱した国を監視下に置く「過剰財政赤字是正措置」という制度が採用されているが,ルール逸脱に一定の合理性がある場合には即座にペナルティを科すことはしない.しかし,ペナルティの最適な大きさや,どのような場合にペナルティを免除するのかといった分析はこれまで行われておらず,今後の研究が待たれている. 今後の研究では主に国際協調ルールに注目した上で,ルールを逸脱した国に与えるペナルティの大きさや,どのような場合にペナルティを免除するのかについての理論分析を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19流行の影響でいくつかの研究会・学会への参加が中止になったため,次年度使用額が生じた.次年度使用額は学会へのオンライン参加等に活用する予定である.
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