研究課題/領域番号 |
21K01495
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研究機関 | 阪南大学 |
研究代表者 |
西 洋 阪南大学, 経済学部, 教授 (10509128)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | レジリエンス / 感応性指数 / R-JIPデータベース / 産業構造変化 / 地域経済 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は次の三つの問題を総合的に解決することである。第1に、経済的レジリエンスを多元的な観点から精緻化し、これを測る新たな尺度を開発する。第2に、この尺度を使いレジリエンスの定量化を測ると同時に、多変量解析によってこの決定要因を明らかにする。第3に、分析視点を産業レベルに定め、日本経済が経験してきた代表的なショックに対する産業の反応、及びショックの産業間・マクロ経済への波及メカニズムを析出する。 2021年度には,相互補完的に第1と第2の課題に取り組んだ。経済的レジリエンスの概念は,おおきく「エンジニアリングなもの」,「エコロジカルなもの」,そして「エヴォリューショナリーなもの」に分類される。このうち「エヴォリューショナリーなもの」は,あるショックに対する経済単位のレジリエンスを,レジスタンス(耐性),リカヴァリー(回復),リオリエンテーション(再構築),およびリニューアル(再生)のプロセスの総体として考察する。これについての先行研究の成果を整理するとともに,このうちとくにレジスタンス(耐性),リカヴァリー(回復)を包括的に測定する尺度の開発を行った。 レジリエンスの測定では,Ron Martinが提起した「感応性指数(sensitivity index)」という尺度がしばしば用いられる。これは,景気後退と回復の過程においてある経済単位(例えばある地域)が実現した変化率と,ベンチマークとなる経済単位(例えば国全体)が実現した変化率の比率をもって定義される。この尺度を発展させ,レジリエンスがそれを構成する産業からどのような影響を受けているのかをあわせて分析することができる「構造的感応性指数(structural sensitivity index)」を独自に定式化し,日本の都道府県のレジリエンス分析に応用する段階へ進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り,21年度は,地域経済のレジリエンスに関するサーベイとレジリエンスの測定尺度の開発を行った。これについては2021年11月に進化経済学会の部会にて「経済的レジリエンスに関する諸研究:概念と測定を中心に」というタイトルで報告も行った。当初の研究計画に照らし合わせて,おおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在,Industrial sources and unevenness of regional economic resilience in Japanというタイトルで,21年度に行った研究を,論文化しているところである。今後は,まずこの論文を完成させ,国際誌での採択を目指す。ここでは,独自に定式化した「構造的感応性指数(structural sensitivity index)」をもとに,R-JIPデータベースを用いて,日本の経済循環過程おける地域経済(47都道府県)の雇用のレジリエンスの産業的源泉,その不均等性を測定することを目的にしている。 他方で,この研究には日本経済のレジリエンスをとくに産業別に理解するうえで課題が残る。それは方法というよりも,使用したデータ(R-JIPデータベース)の性質に係る課題であるが,レジリエンスの変化を捉えていくのに,年次データはあまり適していない。というのも,年次データであると,ショックや回復が起きた時点を年単位でしか把握できず,どうしても測定上の時間的な誤差が発生してしまう。またR-JIPデータベースは雇用や付加価値といった実体面での数量変化は把握できるが,資産,負債,純資産といった金融面におけるストックや,その他フローの変数を含んでいない。したがって,レジリエンスが生み出されていくうえで,実体面に対する金融面の影響を踏まえることができない。 この点を改善するために,鉱工業生産指数や法人企業統計といった月次,あるいは四半期データを用いた時系列分析を行っていくことを次なる課題として考えている。これらのデータは高度成長期までさかのぼることができ,それゆえ,本研究の第3の課題の解明にもつなげることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
21年度はコロナ禍にあって国内・国外出張が困難であった。このため旅費の使用はゼロであった。その分,当初,使用するはずであった予算が余ることになった。22年度は,論文をできるだけ早く完成させ,それをもって対面で開催されている国内・国外の研究会で報告するために予算を使用する計画である。
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備考 |
これらのwebページやそこからのリンクサイトにはわたしの研究活動がまとめられています。
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