研究課題/領域番号 |
21K01557
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
伊藤 彰敏 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (80307371)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ユニバーサル・バンク / 経済効率性 / 利益相反 / IPO / 資産運用 |
研究実績の概要 |
ユニバーサル・バンクは、様々な金融事業を一つのグループ内で実施している。今年度は、特にユニバーサル・バンクの顧客企業の新規株式上場(initial public offering: IPO)という取引に焦点を絞り、ユニバーサル・バンクの主要な事業である商業銀行、投資銀行、資産運用の事業内容とその相互関連につき詳細な取引データを用いて分析を進めた。第一に、ユニバーサル・バンクの貸付先企業のIPOにおける引受主幹事の選択、発行価格、手数料、シンジケート団などのデータを用い、IPO時の価格形成とIPO後の長期パフォーマンスにユニバーサル・バンクの関与が与える影響について実証分析した。分析結果からは、ユニバーサル・バンクはある種の独占力を行使してIPO時に過小値付けを引き起こしている可能性が示唆されたが、手数料の割引などによって発行企業に還元していることも示唆された。第二に、ユニバーサル・バンクの運用ファンドの保有株式やパフォーマンスのデータを用い、IPO前後における情報生産インセンティブの程度、利益相反と情報生産の葛藤、顧客企業情報の資産運用での活用の程度などを分析した。分析結果からは、ユニバーサル・バンクは、むしろその情報有意を利用しない方向でIPO株の配分を行うという、米国等の研究とは大きく異なる実証結果を得た。このように、ユニバーサル・バンクの事業である商業銀行、投資銀行、資産運用において、詳細かつ長期の取引データを活用することにより、事業間の相互関連についてより明確な理解が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書において記載した①主要事業間の相互関連の再検討(2021-2022年度に実施予定)について、ほぼ予定通りの分析作業を実施した。具体的には、ユニバーサル・バンクの顧客企業のIPOという取引に焦点を絞り、極めて詳細な取引データを収集した。その上で、引受主幹事の選択、発行価格や手数料の決定、シンジケート団形成などの分析や、ユニバーサル・バンク内の運用ファンドの株式ポートフォリオにおける顧客企業情報の利用の仕方や程度について示唆に富む分析結果を得ることができ、今後の研究の方向性が明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画書にある①主要事業間の相互関連の再検討(2021-2022年度に実施予定)については、IPOから別の取引(社債発行など)に拡張した分析を行う。そして②組織形態、統合形態と経済効率性(2022年度に実施予定)に関する分析作業に入る。具体的には、銀行間の合併と再編、銀行と証券会社との提携や合併などのイベントを活用し、ユニバーサル・バンクにおける主要事業の統合に関する様々な形態の効果についてDID分析を実施する予定である。また研究計画書にある③顧客企業の財務業績、ユニバーサル・バンク自身の財務業績(2023年度に実施予定)に関する分析についても、ユニバーサル・バンクの顧客として資金調達をした企業のその後の投資行動、リスク・テイク、業績などを検討する。加えてユニバーサル・バンク自身のパフォーマンスとリスクを分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、IPOに関する取引の分析に焦点を絞ったので、データセットの購入費用が予定よりも少額となった。ただし2022年度以降に、他の証券発行取引に分析を拡張する予定なので、そうした分析の拡張に必要なデータの購入に充てる予定である。
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