研究課題/領域番号 |
21K01590
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
英 邦広 関西大学, 商学部, 教授 (40547949)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 株価上昇効果 / 株価プレミアム縮小効果 / 株価変動抑制効果 / 消費 / VARモデル |
研究実績の概要 |
2022年度で主に行ったことは、2021年度の分析した内容や考察した内容を基に、リーマン・ショック後とコロナ・ショック後の経済状況の比較検証を行うために、ベクトル自己回帰モデル (VARモデル) を利用して生産、消費、金融市場、金融緩和の関係を検証したことである。対象期間としては、2008年9月から2011年6月までの分析期間と2020年1月から2022年10月までの分析期間となっている。得られた主な結果は次となる。1番目に、GDPの低下はリーマン・ショック後よりもコロナ・ショック後による影響の方が大きいことである。しかし、GDPの構成項目別の影響を見ていくと、財貨・サービスの輸出や輸入は、コロナ・ショックよりもリーマン・ショックによる影響の方が大きいことも分かった。2番目に、マネタリーベース平均残高と政府債務合計の推移から、リーマン・ショック後よりもコロナ・ショック後の方が日本銀行による大規模な金融緩和や政府による積極的な財政支出を実施してきていたことが分かった。3番目に、日本銀行によるマネタリーベースの拡大を通じた株価上昇効果、株価プレミアム縮小効果、株価変動抑制効果は統計的有意な結果として確認することができなかった。4番目に、株価上昇を通じて消費が拡大する効果がコロナ・ショック後で統計的有意な結果として確認することができた。1番目から4番目までの分析結果から、コロナ・ショック後の方がリーマン・ショック後よりもGDPの落ち込みが大きく、経済政策の規模も大きかったことが分かった。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大はいまだに収束する気配がないことや、新型コロナウイルス感染症に対する政府の見解が「新型インフルエンザ等感染症 (2類相当) 」から「5類感染症」になることもあり、withコロナ禍での生活様式の変化を考慮に入れたうえでの経済対策が必要となる可能性がでてくる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度では、2021年度と同様に、リーマン・ショックとコロナ・ショックの経済的影響を比較検証するために、GDP統計、労働市場、金融市場におけるデータを用いて各ショックがどの程度継続し、元の水準に戻るまでにどの程度時間が必要であったかについて考察をした。また、リーマン・ショック後とコロナ・ショック後の金融政策と財政政策といった経済政策対応についても調査し、その規模についても考察をした。実証分析からは、金融緩和を通じた株価上昇効果、株価プレミアム縮小効果、株価変動抑制効果、生産や消費の拡大は統計的有意な結果として確認されなかったことが挙げられる。本研究では、次の2点について明らかにすることを目的としている。1)リーマン・ショックとコロナ・ショックが金融市場と実体経済に対しどのような影響を与えたか。2)ショック後に実施された経済政策が金融市場と実体経済に対しどの程度有効であったのか。2022年度では、1)について、GDP統計、労働市場、金融市場のデータの推移から明らかにすることができた。2)について、金融政策による金融緩和規模に関してはマネタリーベース平均残高のデータの推移から考察し、財政政策による財政支出規模に関しては普通国債等/現存額や政府債務合計のデータの推移から考察し、その規模を明らかにすることができた。また、計量経済学の手法を用いて、リーマン・ショック後とコロナ・ショック後の金融緩和と生産、消費、株価に与えた影響について分析した結果、金融緩和が生産、消費、株価に頑健的な影響を与えていたという結果は確認できなかった。ただし、株価の上昇を通じた効果に関しては今後さらなる分析を行うことでその効果が確認できる可能性もでてきた。上記については、研究計画で予定していた作業であるため、現時点では、「おおむね順調に進展している。」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、1)リーマン・ショックとコロナ・ショックが金融市場と実体経済に対しどのような影響を与えたか、2)ショック後に実施された経済政策が金融市場と実体経済に対しどの程度有効であったのかについて、明らかにすることを目的としている。1)について、研究期間の1年目に、実質GDP、完全失業率、日経平均株価指数の推移から明らかにすることができた。研究期間の2年目に、実質GDP、家計最終消費支出、住宅投資、財貨・サービスの輸出、財貨・サービスの輸入、完全失業率、日経平均株価指数、長期金利の推移から明らかにすることができた。2)について、研究期間の2年目に、マネタリーベース平均残高から金融緩和の規模、普通国債等/現存額と政務債務合計から財政支出の規模について明らかにした。また、計量経済学の手法を用いて、リーマン・ショック後とコロナ・ショック後の金融緩和の拡大が生産、消費、株価に与えた影響について分析、考察をした。今後は、1)についてのデータの推移の再確認を継続して行うとともに、2)についてはwithコロナ禍になったことも考慮に入れた財政政策運営の内容や日本銀行総裁が交代したことによる金融政策運営の変更についても調査し、その直接的・間接的影響を考察・分析していくことにする。また、新型コロナウイルス感染症が拡大・蔓延したことによるテレワーク需要が拡大したことで、都市や地方の経済に対してどのような影響を及ばしたかについても分析、考察をしていき、リーマン・ショックとコロナ・ショックによる経済的影響の比較検証を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度においては国内外の新型コロナウイルス感染症の拡大がある程度落ち着いてきていたものの、用心が必要と考えていたため、国外だけではなく、国内の学会・研究会・研究打合せなどによる出張はなるべく控えめにしていた。その結果、計画的な旅費の使用ができていない。また、海外の新型コロナウイルス感染症の拡大や海外情勢の悪化により、昨年度から問題となっている国内向けの半導体や電子部品の不足、素材・原材料価格の高騰によるサプライチェーンの混乱などにより、パソコン関連商品の購入を延期してきた。そのため、計画的な物品費の購入ができていない。2023年度には、新型コロナウイルス感染症による経済環境や生活様式もある程度落ち着くことが予想されているため、必要な学会・研究会への出張の再開やパソコン関連商品の購入を行うこととする。また、経済政策 (財政政策・金融政策) はある程度の間隔で実施され、それによって金融市場は反応する。新型コロナウイルスの感染症法上の分類については「2類相当」から「5類」への引き下げが行われるため、財政支出規模の変化が予想される。日本銀行の総裁が2023年4月から交代されることによって、金融政策運営の見直しが行われることが予想される。そのため、新たな情報が更新された書籍や経済・金融データを購入できるようにタイミングを調整し、適切な購入や使用を考えている。
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