研究課題/領域番号 |
21K01590
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
英 邦広 関西大学, 商学部, 教授 (40547949)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 時系列分析 / 県民所得 / ジニ係数 / リーマン・ショック / コロナ・ショック |
研究実績の概要 |
2023年度で主に行ったことは、2021年度と2022年度で分析した内容や考察した内容を基に、都道府県別レベルのデータを用いてリーマン・ショック後とコロナ・ショック後の1人当たり県民所得とジニ係数を計算し、リーマン・ショックとコロナ・ショックが経済活動に与えた影響を考察したことである。また、ベクトル自己回帰モデル (VARモデル) に都道府県別レベルのデータを用いてコロナ・ショックの影響が小さかった青森県と三重県、コロナ・ショックの影響が大きかった群馬県と東京都の合計4地域を分析対象とし、地域別消費総合指数の変化率、日経平均株価指数の変化率、マネタリーベースの変化率を用いて比較検証を行ったことである。VARモデルの対象期間としては、コロナ・ショック前は2013年1月から2019年12月までであり、コロナ・ショック後は2020年1月から2023年9月までである。得られた主な結果は次のとおりである。1番目に、リーマン・ショックとコロナ・ショックの影響は都道府県ごとによって受ける影響度合いが異なっていることが分かった。2番目に、1人当たり県民所得から計算されたジニ係数はリーマン・ショックとコロナ・ショックの後に低下していることが分かった。3番目に、2013年1月から2023年9月までにおいて、金融緩和政策を通じて株価を上昇させる株価上昇効果が支持されていることが分かった。4番目に、2013年1月から2023年9月までにおいて、株価上昇を通じて消費が拡大する資産効果が青森県、三重県、群馬県、東京都の4地域において支持されていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2023年度では、2021年度、2022年度と同様に、リーマン・ショックとコロナ・ショックの経済的影響を比較検証するために、マクロ経済に関するGDP統計、労働市場、金融市場におけるデータの推移と都道府県別データの推移を確認し、それらについて考察をした。本研究の問いは、金融面、財政面、社会面に関する日本における事情を考慮して分析した場合、1)リーマン・ショックとコロナ・ショックが金融市場と実体経済に対しどのような影響を与えたか、2)ショック後に実施された経済政策が金融市場と実体経済に対しどの程度有効であったのかについてを明らかにすることである。2022年度では、2)において、リーマン・ショック後とコロナ・ショック後の金融緩和政策が生産、消費、株価に与えた影響について分析した結果、金融緩和政策が生産、消費、株価に頑健的な影響を与えていたという結果は確認できていなかったが、株価上昇を通じた効果はさらなる分析の必要性があると感じていた。そこで、2023年度では、都道府県別のデータを用いて金融緩和政策と地域経済の関係を検証をすることとした。分析結果から、2013年1月から2023年9月までにおいて金融緩和政策を通じて株価を上昇させる株価上昇効果が支持されていることが分かり、株価上昇を通じて消費が拡大する資産効果が青森県、三重県、群馬県、東京都の4地域において支持されているることが分かった。しかし、社会面に関する日本における事情に関して、現時点では4地域のみにしか分析が完了をしていない。そのため、残りの地域の分析を行うことが残された課題である。こうした事情から、現時点では、「遅れている。」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の問いは、金融面、財政面、社会面に関する日本における事情を考慮して分析した場合、1)リーマン・ショックとコロナ・ショックが金融市場と実体経済に対しどのような影響を与えたか? 2)ショック後に実施された経済政策が金融市場と実体経済に対しどの程度有効であったのか? である。1)について、研究期間の1年目・2年目・3年目において、実質GDP、家計最終消費支出、住宅投資、財貨・サービスの輸出、財貨・サービスの輸入、完全失業率、日経平均株価指数、長期金利、1人当たり県民所得、ジニ係数、新型コロナウイルス感染者状況の推移を観察し、その影響を明らかにした。2)について、研究期間の2年目にマネタリーベース平均残高から金融緩和政策の規模、普通国債等/現存額と政務債務合計から財政支出の規模について明らかにし、リーマン・ショック後とコロナ・ショック後の金融緩和政策の拡大が生産、消費、株価に与えた影響について分析、考察をした。また、研究期間の3年目には、金融緩和政策の拡大がコロナ・ショックの影響が小さかった青森県と三重県、コロナ・ショックの影響が大きかった群馬県と東京都に対して、どのような効果を与えていたかを地域別の消費と株価のデータを用いて分析、考察を行った。今後は、1)についてのデータの推移の再確認を継続して行うとともに、2)についてはwithコロナ禍になったことも考慮に入れた財政政策運営の内容の精査、新型コロナウイルス感染症が拡大・蔓延したことによるテレワーク需要と地域経済との関係性の調査、そして、残された課題である残りの43地域の分析や考察を行うことが挙げられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度においては円安による旅費の高騰、海外における麻疹の流行や出張先の研究者の体調などを総合的に勘案し、当初予定をしていた海外出張を急遽取りやめることとなった。その結果、計画的な旅費の使用ができていないこととなった。また、2020年度に起きた新型コロナウイルス感染症の影響や海外情勢の悪化によって国内向けの半導体や電子部品が不足したこと、そして円安がさらに進んだことによって素材・原材料価格が高騰し、パソコン関連商品の価格も当初予定していた価格よりも高くなったことによって、購入を延期することとなった。そのため、計画的な物品費の購入についてもできていないこととなった。2024年度になると2023年度の時よりも上記のことが改善するかはやや未定であるが、2024年度は研究期間を当初よりも1年間延期し、2024年度で研究期間を終了することを想定しているため、2024年度には、実施する研究内容と照らし合わせて、必要となる学会・研究会への出張の再開、実証分析で必要となるパソコン関連商品やデータの購入、新たに出版される研究書をはじめとした図書の購入などを行うこととする。
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