研究課題/領域番号 |
21K01855
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
古村 学 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (10547003)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 世界自然遺産 / 自然保護 / 知床 / 小笠原諸島 / 西表島 / エコツーリズム / 野生生物 / 日常生活 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、地域社会に暮らす人びとにとっての世界自然遺産の意味を明らかにすることにある。対象地域は、知床、小笠原諸島、西表島である。これらの地域の人びとは、世界遺産をどのようにとらえているのか、どのような行動をとっているのか。それはなぜなのか、これらを地域の日常生活から考察する。とくに、①世界遺産登録後の社会条件の変化、そこから生まれる住民の意識、行動、自然観などの変化に着目し、②さらに、登録時期も、社会条件も異なる複数地域の比較検討をおこなうことにより、その変化の意味を明確化させる。そのうえで、地域社会にとって、より望ましい世界自然遺産のあり方、さらには、自然保護の在りかたを模索していきたい。 2021(令和3年)度の研究到達目標は、【傾向と問題点の明確化】確定、それをもとにした【現地調査】への着手である。【傾向と問題点の明確化】として、先行研究を整理しなおすことにより、既存研究の到達地点を明らかにするとともに、その限界を明確化した。また、これまでの現地調査で収集したデータを、変化と比較の視点から整理しなおした。既存研究は、対象となる遺産の保全に役立つものという傾向が強い。もちろん、それ自体の意味は否定のしようもない。しかし、そこに暮らす人びとは、保全へのかかわりで見られるばかりで、そこで生きて、生活している人という視点は弱いものである。そこで、本研究では、そのような人びとから世界自然遺産を読み直すという方向性を確認した。これらの作業を通して、現地調査へ向けての準備をととのえた。 【現地調査】であるが、8から9月にかけ西表島にて、3月には小笠原でおこなう予定であった。西表島は、世界遺産登録直後であり、小笠原は登録から10周年で大きな動きがあることが予測できたからである。しかし、新型コロナ蔓延のため現地調査を断念せざるをえなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021(令和3)年度の到達目標は二つある。【傾向と問題点の明確化】による現地調査の方向性の決定、この方向性にもとづく、【現地調査】への着手である。前者については、十分に目標を達成できたが、後者は不十分なものとなった。 【傾向と問題点の明確化】にかんしては、これまでの研究の蓄積があり、十全に進めることができた。2021年度は、「小笠原諸島」が世界自然遺産への登録10周年、「奄美、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が登録され、学術誌で特集が組まれるなど、多数の研究がなされている。これらの新たな研究を含め、既存研究では、生態学者による、対象を守るための研究が多い。また、登録への経緯、登録時もしくは登録後の取り組みと課題にかんする研究もみられる。いうまでもなく、これらの研究は、世界遺産を維持していくために、重要な研究である。しかし、これらの研究からは、そこで暮らし、生きている人々の姿が見えてくることはない。 そこで、本研究では、そこに生きる人びとに注目し、世界遺産のみならず人々の生活を広く見ていく包括的アプローチをとること、とくに登録後の生活や意識の変化を追うことにより、人々にとっての世界遺産の意味を明らかにする方向性を明確化した。また、これまでの調査で得られたデータを、変化と比較の視点から整理しなおし、新たな調査項目および調査指標を決定し、現地調査への準備とした。 【現地調査】にかんしては、夏の8月から9月にかけて西表島、春の3月には小笠原諸島での調査を計画していた。しかし、新型コロナの蔓延、拡大により、断念せざるを得なかった。本研究では、聞き取り調査や参与観察が重視されているが、対象相手に不安を与え、迷惑となる恐れが高いからである。電話やZoomなどによる遠隔調査はおこなったが、調査対象者が限られ、十分な時間を取れないなど不十分な調査しかおこなうことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2022(令和4)年度の研究到達目標は、【現地調査】に着手することである。当初の予定とは変更し、2021年度に予定していた場所で調査をおこなう。8月から9月にかけては、世界自然遺産登録間もない西表島にて、3月には登録10周年を迎えたばかりの小笠原で調査をおこなう予定である。登録、10周年と節目の年を迎えたばかりであるため、社会的な動きがあり、記憶も鮮明なため、有意義な調査が期待できる。 なお、これらの調査では、【傾向と問題点の明確化】で確定した方向性にしたがって、聞き取り調査、参与観察を中心とした質的調査をおこなう。これまで調べてきたエコツーリズム、野生生物とのかかわり、保全活動の影響などのデータは、経年変化に留意し、地域間の比較をすでにすましており、あらたな調査項目などは検討済みであり、調査の方向性を確定している。なお、これらの調査地では、これまで長期間にわたり調査をおこなっており、十分な関係性ができているために、順調に調査が進められることが期待できる。 また、現地調査をおこなうさいには、現地での講演会、勉強会などの【成果発表】をおこなう予定である。これは、研究成果を現地にフィード・バックすることを目標としているが、それ以上に、そこでの反応を取り込むことにより、より現地社会にもとづいた形で研究を発展させる意味を持っている。また、学問界に向けても、所属する学会、研究会などにおいて、研究成果を発表する予定である。 【現地調査】にかんしては、新型コロナの影響により2021年度におこなうことができず、大幅に遅れているといわざるをえない。この遅れを取り戻すために、令和5年度後期に半年間取得予定の研究専念制度などを活用していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021(令和3)年度は、新型コロナ拡大の影響で、現地調査をおこなうことができなかった。そのため、旅費などは使用していない。そのため、次年度使用額が生じた。本研究では現地調査が必要不可欠であり、今後におこなう必要がある。したがって、これらの予算は、今後に予定されている現地調査、とくに2023年度後期の研究専念制度期間の調査のための費用として、使用する予定である。
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