研究課題/領域番号 |
21K01869
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
野沢 慎司 明治学院大学, 社会学部, 教授 (40218318)
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研究分担者 |
菊地 真理 大阪産業大学, 経済学部, 准教授 (10616585)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ステップファミリー / 家族関係の複雑性 / 家族の多様性 / 子どもの福祉 / 家族制度・政策 |
研究実績の概要 |
過去に実施した若年成人継子へのインタビュー調査(野沢・菊地2014, 野沢2015)は、両親の離婚や再婚によって子どもと別居親との関係が子どもの意に反して断絶したり、継親を親として受容するよう強いられたりすることが、子どもたちの適応を困難にすることを示唆していた。そうした知見に基づき、離婚・再婚後も両親が子どもに関わり、継親が親を代替せず、柔軟で創造的な拡張するネットワーク型のステップファミリー形成の可能性を提案してきた(野沢・菊地2021)。しかし、そのような家族パターンが促進される条件を探ることが、具体的な制度改革や政策提言を導く意味でも、課題となっている。 本研究では、ステップファミリー内に含まれる異なる立場の当事者を対象としたインタビューからそうした条件を探り、現在の日本では先端的で少数派の当事者による新しい実践の可能性や効果を検証することを主たる目的としている。 まずは子どもの同居実母が再婚しているケースで、現在も別居父と交流が続いているケースを戦略的にサンプリングして、インタビュー調査を行った。先行して進めたケースと合わせて、これまでに計画された調査(a)、子どもの同居母親15人を対象にしたオンラインインタビュー調査を実施できた。コロナ禍による対面でのインタビュー調査に代替する方法として試行的に始めたZoomによるオンラインでのインタビュー調査であったが、こちらが危惧したラポール形成などに困難はなく、予想通りの成果を上げたと評価している。 調査対象者の特性により居住地が全国に分散しており、コロナ禍での対面の不安が払拭されていないため、今後もZoomによるインタビュー調査の方法を用いることが有効であると確認できた。まずは同居実母を対象とした調査(a)を終了でき、分析に取りかかれたことが昨年度の重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の通り、一定の成果を上げることができたが、大規模な登録モニターを保有する大手の調査会社での募集であったにもかかわらず、先端的な新しい実践に基づく離婚・再婚後の家族形成の事例を対象に含めることの困難を経験した。詳細な分析は進行中であり、結論を明快に述べることは難しいが、子どもの視点を中心として離婚後も両親が協力し合う新しい家族モデルに向かう事例は希少であった。分析に含まれたケースには、偶然の要因によって離婚後の別居親(父親)と子どもの関係が続くことがあるが、それが親の再婚後も永続できるか危うい状況にあるケースがいくつも見られた。離婚・再婚後の親子関係を社会的に支援するしくみの欠如による影響の大きさを再認識している。 調査(a)の15ケースについては分析に取りかかっているものの、予定されていた調査(b)の同居継父15ケースの実施は未達成である。昨年度後半のコロナ禍の感染状況の悪化を受けて、研究代表者・分担者の双方とも、職場の担当授業(調査実習など)で変則的対応が必要になり、家庭内でも予想外の対応が必要になった。さらに所属学会の役職・役割に予想外に時間を取られる事態が生じて、年度の後半に計画していた時間とエネルギーを投入できなかったことが主な理由である。結果として、昨年度の計画に遅れが生じ、調査(b)を今年度に実施するかたちで全体の計画を後ろ倒しにせざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
調査(a)に続く、調査(b)~調査(d)の協力者のリクルートおよびインタビュー調査の実施が今年度の修正計画となる。先端的ケースの発見が難しいという課題に対しては、調査会社の大規模な登録モニターだけではなく、支援団体など個人的なネットワークを通じて出遭ったケースなどを対象に含める修正を行う。昨年度同様のコロナ禍などによる業務負担の低減が予定通りであれば、かなりの部分を2022年度内に実施できると考えている。ただし、状況によっては、2023年度の前半に調査(d)の全体あるいは一部を実施するかたちで後ろ倒しの可能性がある。その上で、その年度後半で学会報告と論文化を行い、成果を具体化する予定である。 それに加えて、調査の実施順序についても計画の再検討を行った。「調査(b):同居継父15ケース」→「調査(c):別居父親15ケース」→「調査(d):「若年成人子15ケース」という順序でインタビューを実施するのが当初の計画であった。しかし、同居母親インタビューの結果からは、今後の制度改革や政策の焦点となる子どもたちを対象としたデータ収集の重要性と緊急性が改めて認識できた。別居父親と子どもの交流を認めている母親たちにとってさえ、離婚・再婚を経験する子どもたちの感情や思考が見えにくく、親子間で生じるそのギャップについて明らかにするため子どもの立場の当事者の声を集めることを優先したいと考えるに至った。その後に、「調査(b):同居継父15ケース」→「調査(c):別居父親15ケース」を実施することを想定しているが、「若年成人子15ケース」のインタビューを実施した後に、その結果次第で、調査(b)と調査(c)の順番を変更する余地を残している。 以上のような計画変更のために、2021年度の予算残高を2022年度に繰り越して使用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述のように、当初計画していた調査(a)と調査(b)のうち未達成である。その主な理由は、第一に、昨年度後半のコロナ禍の感染状況の悪化を受けて、研究代表者・分担者の双方とも、職場の担当授業(調査実習など)で変則的対応が必要になり、家庭内でも予想外の対応が必要になったこと、そして第二に、両者とも所属学会の役職・役割に予想外に時間を取られる事態が生じたことにある。そのため、年度の後半に計画していた時間とエネルギーを予定通りに投入できない事態に至った。 結果として、調査(b)を次年度に実施するかたちで全体の計画を後ろ倒しにすることに変更した。予算の使用計画は、当初通りの方法で変更はない。15ケースのインタビュー調査を次年度の当初計画に加えて実施することになる。前年度に支援してもらった研究協力者のさらなる協力を得て、調査の実施を進める予定である。しかし、この年度の計画内容がかなり増えたため、コロナ禍の影響軽減や学会関連業務の軽減によってうまく進んだとしても、その一部の実施はその次年度(前半)に延期する可能性がある。
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