研究課題/領域番号 |
21K02071
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
若子 倫菜 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (30505748)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ファスナ / しゅう動 / 因子 / 引張荷重 / 組織 |
研究実績の概要 |
本研究は,触覚的しゅう動感に優れたファスナを設計,製造できる技術を確立することを目的としている.本目的を達成するために,3つの課題と5つの検討項目を計画している.課題①は「触覚的しゅう動感の判断に関与している評価因子を明らかにすること」であり,触覚的しゅう動感の評価因子を明らかにすること(検討項目①-1)と,スライダのしゅう動速度が触覚的しゅう動感におよぼす影響を把握すること(検討項目①-2)を検討項目とした.課題②は「触覚的しゅう動感の評価因子に影響をおよぼすスライダ引張荷重の特徴量を明らかにすること」であり,官能評価と同一しゅう動速度でのスライダ引張荷重を測定できる装置を構築すること(検討項目②-1)と,触覚的しゅう動感の評価因子と対応関係をもつスライダ引張荷重の特徴量を明らかにすること(検討項目②-2)とした.課題③は「テープ部設計要素をパラメータにもつスライダ引張荷重(相対値)計算モデルを構築すること」であり,検討項目③としている. 令和3年度は検討項目①-1,①-2および②-1について検討した.しゅう動速度は「滑らか」と「高級な」に影響をおよぼすことがわかった(検討項目①-2).また,しゅう動感の潜在的な評価因子を把握するために因子分析した結果,寄与率92.1%の因子が抽出され,“軽快”であることが評価因子とわかった(検討項目①-1).また,スライダをしゅう動するとともにその引張荷重を検出する引張荷重測定部と実験試料を2軸把持する把持部とから構成されるスライダ引張荷重測定装置を試作した.各部での引張荷重が検出可能であり,官能評価の際と類似したしゅう動速度を再現するしゅう動条件を調査して,同条件でのスライダ引張荷重を測定できるようにした(検討項目②-1).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において計画している3つの課題と5つの検討項目のうち,課題①「触覚的しゅう動感の判断に関与している評価因子を明らかにすること」と課題②「触覚的しゅう動感の評価因子と対応関係をもつスライダ引張荷重の特徴量を明らかにすること」は令和3年度~4年度にかけて検討することを予定している. 課題①に関する検討項目は「触覚的しゅう動感の評価因子を明らかにすること」と「スライダのしゅう動速度が触覚的しゅう動感におよぼす影響を把握すること」の2つである.官能評価実験を実施し,評価結果の因子分析からしゅう動感の評価因子は“軽快”であることを明らかにできた.また,しゅう動速度は,それによって評価が変動する評価用語が一部あるもののしゅう動感に関する評価に強い影響をおよぼすものではないことも明らかにできた.したがって,課題①はほぼ解決できたと判断している. 課題②に関する検討項目は「官能評価と同一しゅう動速度でのスライダ引張荷重を測定できる装置を構築すること」と「触覚的しゅう動感の評価因子と対応関係をもつスライダ引張荷重の特徴量を明らかにすること」の2つである.スライダをしゅう動するとともにその引張荷重を検出する引張荷重測定部と実験試料を2軸把持する把持部とから構成されるスライダ引張荷重測定装置を試作した.また,官能評価の際と類似したしゅう動速度を再現するしゅう動条件でスライダ引張荷重を測定できるようにした.これらは,官能評価と同一しゅう動速度でのスライダ引張荷重を測定する装置を構築できたことを表す. 課題①と課題②に関する4つの検討項目のうち3つを解決できていることから,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は,主に,課題②における2つ目の検討項目「触覚的しゅう動感の評価因子と対応関係をもつスライダ引張荷重の特徴量を明らかにすること」について取り組む計画である.まず,スライダ引張荷重について同一実験試料内,実験試料間でのばらつきを調査し,特徴量抽出の基盤とする計測条件あるいは計測データの処理条件を定める.ついで,計測したスライダ引張荷重について偏りや変化率,仕事量等,変動のもつ特徴を定量的に表し,触覚的しゅう動感の評価因子と対応関係をもつものを調査する. 検討項目②-2に先立ち,スライダ本体と引手との角度のスライダ引張荷重への影響を確認する.スライダは本体と引手とから構成されており,しゅう動時は,スライダの構造に起因してスライダ本体が水平であるテープ部と把持用布に対して傾いた状態になる.この傾きは引張荷重の大きさに影響をおよぼし,また,スライダ引手の把持の仕方にも影響を受けることが予想される.スライダ引張荷重測定装置において,スライダしゅう動時の引手の把持状態を忠実に再現すること(スライダ本体の引手に対する傾きを可変にすること)は,コネクタや引張荷重検出部に複雑な機構を必要とする.令和3年度は,スライダ引張荷重測定装置の主要構造を組み上げることを目標にして,「引手が水平である場合」に限定して測定装置の試作,スライダ引張荷重の計測を行った.したがって,スライダ本体と引手との角度が「垂直の場合」と「引手が水平の場合」について,スライダ引張荷重の差異を調査する.角度が「垂直である場合」を選定する理由は,官能評価において,スライダの把持の仕方を統一するために,スライダ本体と引手とが垂直な状態を維持するようにしてしゅう動することを評価者に指定しているためである.なお,試作したスライダ引張荷重測定装置の把持方法は「引手が水平の場合」に対応する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度使用額が生じた主な理由は,スライダ引手の把持方法を「引手が水平の場合」の1条件としたことであり,コネクタ等の試作のための費用として予定していたものである. 令和4年度においては,スライダ本体と引手との角度を垂直にするためのコネクタ等の試作(材料費と加工費)に使用する計画である.また,令和4年度の研究経費として計上したものについては,試作したスライダ引張荷重測定装置の測定精度の安定化を図るために,引張荷重測定装置用部品(防振用品等)や荷重校正用品等に使用する計画である.これに加え,学会・年次大会や雑誌論文等での研究成果の発表のために使用する計画である.
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