本研究は,触覚的しゅう動感に優れたファスナを設計,製造できる技術を確立することを目的としており,3つの課題と5つの検討項目を計画した.課題①は「触覚的しゅう動感の判断に関与している評価因子を明らかにすること」であり,触覚的しゅう動感の評価因子の分析(検討項目①-1)と,スライダのしゅう動速度が触覚的しゅう動感におよぼす影響の把握(検討項目①-2)を検討項目とした.課題②は「触覚的しゅう動感の評価因子に影響をおよぼすスライダ引張荷重の特徴量を明らかにすること」であり,官能評価と同一しゅう動速度でのスライダ引張荷重を測定できる装置の構築(検討項目②-1)と,触覚的しゅう動感の評価因子と対応関係をもつスライダ引張荷重の特徴量の調査(検討項目②-2)とした.課題③は「テープ部設計要素をパラメータにもつスライダ引張荷重(相対値)計算モデルを構築すること」(検討項目③)とした. 令和5年度は検討項目③について検討した.まず,官能評価データの計測を継続し,データ数を追加した.また,テープ部設計要素(初期厚さ,交錯度,単位長さあたりの経糸密度と緯糸密度,および単位面積あたりの交錯点数)について測定した.加えて,ステレオ法を用いてしゅう動時のテープ変形量を計測し,スライダ引張荷重との対応関係を調べた.両者が強い相関関係にあったことから,テープ部設計要素の測定値を説明変数,スライダ引張荷重の特徴量(スライダ引張荷重エネルギおよび平均スライダ引張荷重)を目的変数とする重回帰分析を行い,単位面積当たりの交錯点数をパラメータとするスライダ引張荷重の特徴量のモデル式を得た.令和4年度に明らかにした触覚的しゅう動感(評価因子“軽快感”)とスライダ引張荷重の特徴量との対応関係を組み合わせ,テープ部における単位面積当たりの交錯点数の制御によって触覚的しゅう動感(軽快感)を設計できることを明らかにした.
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