研究課題/領域番号 |
21K02134
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
吉田 潤 岩手医科大学, 教養教育センター, 講師 (20611007)
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研究分担者 |
木村 賢一 岩手大学, 農学部, 教授 (30344625)
伊藤 芳明 岩手大学, 農学部, 准教授 (50312517)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Falcarindiol / 機能性物質 / GSK-3β / インスリン / 糖新生 / セリ科植物 / ウコギ科植物 / ポリアセチレン化合物 |
研究実績の概要 |
本研究はカルシウム感受性の遺伝子変異酵母株の生育回復活性を指標とする新規な薬剤スクリーニング技術を用いて得られた食材由来の生物活性物質の新たな機能性に関する研究である。特に、食用にされているセリ科植物とウコギ科植物に含まれるポリアセチレン化合物であるファルカリンジオール類の糖代謝を中心としたエネルギー代謝制御機構の分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。 ファルカリンジオール類の肝細胞における作用機序を明らかにするために、ラット肝がん細胞及びヒト肝がん細胞にファルカリンジオールを作用させたときのインスリンシグナル伝達経路や栄養シグナル経路の変化を解析した。ラット肝がん細胞株H4IIEにおいてファルカリンジオールは生体内エネルギーセンサーとして働くAMPK、及びタンパク質合成系を調節するmTORC1の下流のシグナル伝達経路を活性化することが示唆された。ファルカリンジオール類を肝細胞に作用させた時の生体内エネルギーセンサー系とオートファジー制御系への影響を解析した結果、ファルカリンジオールの作用によりmTORC1を形成する一部のタンパク質のリン酸化が亢進されることが示唆された。また、ファルカリンジオール類縁体の糖新生抑制活性を評価した結果、ポリアセチレン化合物の糖新生抑制活性と化学構造との相関性を明らかにした。これまでの結果から、食材に含まれるポリアセチレン化合物の細胞内のエネルギーレベルや栄養要因を感知するシグナル伝達経路への影響の一部が明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画としてあげていたファルカリンジオールの糖新生の制御因子及び栄養応答シグナル経路に対する作用機序の解析については、ラット肝がん由来細胞株H4IIEを用いて検討した。H4IIE細胞に対する作用の詳細を明らかにしたことから、次にヒト肝臓由来細胞株HepG2に対する作用を解析しラット細胞における応答と比較検討していく。当初の予想と反して、ファルカリンジオールはインスリンシグナル伝達経路の下流の転写因子のリン酸化の亢進における明確な影響は認められなかったが、一部の転写因子のタンパク質発現量が減少している可能性が得られた。また、ファルカリンジオールの作用によりタンパク質合成/オートファジー制御機構に関するタンパク質のリン酸化が亢進されることが示唆された。今後は糖新生律速酵素群の転写因子の遺伝子発現量の解析とタンパク質分解との関係を検討していく。また、岩手県の森林より食経験のあるセリ科植物とウコギ科植物を採集し、ヘキサン抽出とメタノール抽出してGSK-3βに対する阻害活性と細胞試験を実施した。栄養応答シグナル経路とGSK-3β阻害活性との関連性については重要な知見が得られる可能性があるため今後の検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
ウコギ科山菜のヘキサン抽出物及びメタノール抽出物に遺伝子変異酵母の生育回復活性が認められたことから、その活性物質を明らかにして機能性評価を行う。ウコギ科山菜の可食部をヘキサン抽出またはメタノール抽出し、HPLCで活性物質を単離精製する。同時に非可食部における活性評価を行う。活性物質のGSK-3β阻害活性、糖新生抑制作用、遺伝子発現活性を評価し、食品機能性素材や薬用植物資源としての活用法を検討する予定である。 また、GSK-3β阻害剤は肝臓におけるグリコーゲン合成を促進するためメタボリックシンドロームの予防効果が期待される。一方で、中性脂肪合成を活性化する可能性があるため、ポリアセチレン化合物のヒト肝細胞HepG2におけるグリコーゲン合成と脂肪蓄積作用を総合的に評価する。ファルカリンジオール類を作用させたHepG2細胞の細胞溶解液を調製し、グリコーゲンアッセイキットとリピットアッセイキットを用いて細胞内のグリコーゲンと脂肪蓄積量を定量する。遺伝子発現プロファイリングからファルカリンジオールの糖尿病や肥満に対する新たな機能性を明らかにする。ファルカリンジオール処理したHepG2細胞における約2万遺伝子の発現の特性を、マイクロアレイにて用いて網羅的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
高活性なポリアセチレン化合物の有無を検討するためにウコギ科植物からの活性物質の単離精製を実施中であるために次年度使用額が生じた。また、国際会議がオンライン開催に変更され学会参加費が大幅に減少したことから次年度使用額が生じた。 次年度は、ヤマウドの葉をヘキサン抽出して常法により活性物質を単離精製し、MSによる質量分析とNMRのスペクトル解析にて構造を確認する。この際に使用するHPLC分析カラムを購入する。得られたポリアセチレン化合物をヒト肝がん細胞株HepG2に作用させ、グリコーゲンアッセイキットとリピットアッセイキットを用いて細胞内のグリコーゲンと脂肪球を定量する。
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