研究課題/領域番号 |
21K02260
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
金馬 国晴 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (90367277)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 自学共習 / 共学自習 / 自学自習 / GIGAスクール構想 / 個別最適な学び / 協働的な学び / 令和の日本型学校教育 |
研究実績の概要 |
研究の目的は,「自学共習」という実践的理論を,新教育の諸系譜の歴史と現状(および社会での学びの場)に関する研究を通じて構築することであり,また,その理論を仮説として活用し,ポスト・コロナにおける実践の理想例を選定して分析する作業を通じて仮説検証をし,段階的に「自学共習」論を活用したカリキュラム案を開発していくことであった。 2021年度は,主に「自学共習」の定義について探究し,自学自習,自学共習,共学共習の関係論から考察を始めた。その過程で,本研究が求める理想の実践を表すにふさわしい用語を「共学自習」とも呼べると考えた。「自学共習」と「共学自習」は指すところが同じと考えられず,重点や系譜の違いに関することが研究課題として浮上した。 オンライン・オンデマンドを「自学共習」の事例とみれば,そうした新しい形態の授業,講義について,実際の経験をもって考察することができた年度でもあった。コロナ禍下にあって,現実の政策もまた本研究が見通した線で展開していったため,GIGAスクール構想や,個別最適な学びおよび協働的な学び,「令和の日本型学校教育」といった政策に対する批判的な検討について,論文あるいは総説を3件執筆した。 また上記を新教育の系譜から検討する際の道具として,25年間続けてきたコア・カリキュラム研究の集大成を進めた。論文(未公開を含む)を5件執筆するとともに,『戦後初期コア・カリキュラム研究資料集』4巻分(中学校編および附属校編補遺)を編集・刊行できた。 今後の研究の成果は,学会大会や研究会等で発表・報告することを通じて検証し,活用していきたい。各学会誌に学術論文を投稿し,現場教師が参加する教育雑誌に寄稿する。これらへの掲載後やその草稿の中間報告について,レポートする機会も含めて広く意見をいただくことで,本研究のアイデアと成果を協働的に広げ深めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はコロナ禍もあって出張に制約がかかった。そのため,上記の理論を仮説として活用し,ポスト・コロナにおける実践の理想例を選定して分析する作業を通じて仮説を検証する,という側面は机上にとどまった。とはいえ理論的・仮説的な考察は進め,今後のための基礎作業として以下を進めることができた。 (1)これまでの科研費研究に関連して収集してきた公開授業,学会大会,研究会,ワークショップの関連の冊子類や記録,および入手してきた参考文献を整理し直した。不足する分野などを補うために,オンラインや無料も含めた各種の会に,初年度としては計236件参加した。それらに関連して配信されたレジュメ・パワポ・資料,メモを,これまでと異なる電子データ・ファイルの形で膨大に収集できた。 (2)これまで4件の科研費で行なってきた,コア・カリキュラム他に関わった元教師インタビュー50名に対するテープ起こし記録を全て読み直して分析し,学術論文3件以上(査読中など未公開を含む)にまとめることができた。新たなインタビューも1件行えた。 (3)以上の準備や考察に活用すべく,参考文献の入手・整備を進めた。教育学関連と隣接する社会科学・人文学の文献収集とともに,今後の自身の研究と貸与に活用すべく研究室への配架を続けた。とくに新たに,コロナ禍,SDGsなど社会問題,システム思考,教育と哲学や歴史などの近接領域に関する文献を収集,整理することで,当研究の見通し構築とそのための資料収集ができた。とりわけベルクソン,ドゥルーズ,ヴィゴツキー,文化心理学,およびルーマンが有用とわかったため,文献を入手し読解を試みた。自学自習の根拠としての生命論,活動論,生活論,発達論,システム論,および研究方法論にも注目することができ,新教育や質的研究はそれらと関連させつつ分析すべきことが見通せた。
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今後の研究の推進方策 |
コア・カリキュラムなど新教育のカリキュラム研究を本格化する。その際,現代における新教育の展開を考える上で見取り図となるような著作を活用することで足がかりとしたい。永田佳之編著『変容する世界と日本のオルタナティブ教育』(世織書房,2019)と『オルタナティブ教育』(新評論,2005)は,新教育的な系譜と実際の問題点も含めてのカタログ的な著作となっている。および『世界新教育運動選書』別巻の3冊(明治図書,1988),橋本美保や田中智志による大正新教育に関する編著3件や橋本らによる復刻資料集も足がかりとなる。 さらにコロナ禍が明ける頃に,新教育の諸系譜他「自学共習」の先駆といえる学校,あるいは研究会をフィールドワークし,公開授業に参加するなどして,できればインタビューを行なう。その際,オンライン研究会や実践検討会への参加が,対象の選定に有効である。 こうした中でも文献・資料の収集・読解は積極的に行うことで,研究の進展に備える。大正自由教育,戦後新教育,総合学習,デューイなど進歩主義教育,ヴィゴツキーなどの心理学,シュタイナー,フレネ,ニール,イエナ・プランやそれらの関連の新教育的な学園などを中心に,それらと関連するような哲学・思想,社会科学にも分野を広げる。対してそれらと対立した系譜として,戦時下教育,総力戦体制・総動員,全体主義・ファシズム,新保守主義,そして企業社会,新自由主義などに関しても文献を収集し,入手できた資料の整理・配架,分析を進めたい。
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