研究課題/領域番号 |
21K02260
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
金馬 国晴 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (90367277)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 自学共習 / 共学自習 / 自学共習 / 遊び / 生涯学習 / 生の哲学 / 生命科学 / 現代思想 |
研究実績の概要 |
研究の目的は,「自学共習」という実践的理論を,新教育の諸系譜の歴史と現状に関する研究を通じて構築することであり,また,その理論を仮説として活用し,ポスト・コロナにおける実践の理想例を選定して分析する作業を通じて仮説検証をし,「自学共習」論を活用したカリキュラム案を段階的に開発していくことであった。 理論面では,自学や共習をひとまとまりの活動と見なした場合,遊びが典型例となるとの着想が得られ,文献の整理・収集と読解・考察を進めることで,「越境遊び」という概念の開発を試みた論文,それを教師の自学自習・自学共習といえる生涯学習に応用した学術論文,および教師が総合・探究を実践できるよう自己形成される条件を遊びおよびフロー体験に求めた分担執筆論文を完成させることができた。また数年間の成果として,自学を始め深める根拠として生命概念を発見していたが,引き続き生命知,生の哲学,生命科学他の文献読解を進めるとともに,新たに有機体の哲学,インド哲学他の文献を収集し始め,分担執筆論文を執筆することもできた(刊行は2024年度)。また,現代思想など周辺領域も含めた文献を収集し,読解を進めてきた。 実践面では,学校現場の参観はできなかったものの,学生の政治主体としての成長に関する査読付き共著論文を学会誌に掲載できた。その際,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを活用することで,質的な研究方法論について具体的な考察でき,またゼミナールおよび教職大学院での活用を進めることができた。 今後は,以上のような理論的な探究の成果を,学校現場でのフィールドワークを通じて活用・検証することで,研究会も含めた場での発表・報告を試みることの見通しが立っている。さらに,雑誌,学会誌への掲載論文,および博士論文の執筆を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍においては理論の検討・構築を先行させざるを得なかったが,今年度も理論に重点を置き,とくに遊び,生涯学習,生の哲学ほか西洋やインドの哲学,および生命科学を中心として,新教育研究の基礎固めを行なうことができた。 ・新分野も含めた書籍の入手・整備を進めた。今年度はとくに哲学,歴史学などの文献を収集し,配架を続けることで,学問体系的な見通しを得ることができた。とくに自学自習の根拠に関連して,遊びや生命をめぐる思想,その歴史に注目し,探究的な学習論,遊び論,生涯学習論,世界史論,社会変動論にまで視野を広げて文献収集ができた。これらの基礎付けのために,西洋,およびインドの哲学が示唆的であることがわかり,思想家としてはライプニッツらの近世哲学,ベルクソンらの生の哲学,フーコー,ドゥルーズ,ガタリ,ネグリらの現代思想,さらにはホワイトヘッドの有機体の哲学他の文献を購入し,読解・分析・活用を進めることができた。早速これらの成果を4本の論文にまとめることができた。 ・文献では得られない情報・知見を得るために,学会大会に加えて,オンラインも含む研究会に,無料のものも含めて計200件参加することができた。それらに関連したレジュメ・パワポ・資料やメモも膨大に収集することができた。 ・これまでの科研費も活用した学術論文を複数,学会誌に再投稿したが,新たな視点で再構成する必要性が明らかとなった。今年度における上記の文献準備やそれらをもとにした執筆の経験は,ここ数年間でとりわけ重要で,上記の論文群の再構成にあたって活用できる見通しが立った。
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今後の研究の推進方策 |
以上を踏まえて新教育に関する文献の読解と研究を本格化し,加えて,好例となる実践事例を集めて仮説検証を進める。その際,新教育研究の見取り図として,永田佳之編著『変容する世界と日本のオルタナティブ教育』と『オルタナティブ教育』,および『世界新教育運動選書』別巻の3冊と橋本美保・田中智志編による大正新教育研究3冊等を活用し,全体像を捉えることが有効である。また「自学共習」の理論を彫琢するにあたって,ここ数年間学習・研究してきたTEA (複線径路等至性アプローチ),活動理論,M-GTA,および生の哲学,現代思想(場合によっては形而上学的な世界観)等を活用する見通しが立っている。 さらに,「自学共習」として位置づけられるような学校,施設,あるいは研究会を選定し,実際にフィールドワーク,公開授業などの機会に参加する。文科省が「特別の教育課程の編成を認める制度」として示したリストが有用であり,そこに挙がった学校・施設,事業を例として考えていける。また,各種研究会への参加が,対象現場の選定に効果的とわかってきたため,今年度も200件以上に参加することで情報や人脈のつながりを構築する。 文献・資料の収集は未だ不足しているため,内外の新教育の諸系譜,とくにそれぞれの新教育,たとえばデューイらアメリカ進歩主義,ドイツ改革教育,シュタイナー,ニール,フレネ他の文献を収集する。新たに,日本の新教育史研究の第一人者であった中野光が所蔵した資料,書籍が入手できることとなり,整理・分析し活用を図る。それら新教育の源流となるような哲学・思想を中心に,歴史,社会科学の関連文献も収集するとともに,対比的な文献と突き合わせて読解することも有効であり,システム社会論,新自由主義,新保守主義,そして高度情報化社会とSociety5.0構想,個別最適な学び論,AI論などに関しても文献収集をし,比較分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張を行わず、また書籍購入は古書を多くし研究会参加費はほとんど無料の会を選ぶなどして節約したため。
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