研究課題/領域番号 |
21K02381
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野坂 祐子 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (20379324)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トラウマインフォームドケア / 特別なニーズのある子ども |
研究実績の概要 |
幼児や特別なニーズのある子どもへのトラウマインフォームドケア(TIC)実践のために、初年度は、TICの4つの鍵概念のうちRealizeとRecognizeの2つについて調査を実施した。 幼児を含む特別なニーズのある子どもとして、被虐待等を理由に措置された児童養護施設の入所児童に焦点をあて、9施設の職員(129名)への質問紙調査を実施した。トラウマの影響と考えられる子どもの行動と職員自身の反応や対応について、226の自由記述データを得た。子どもが不調をきたすきっかけ(リマインダー)には、トラウマ体験に直接関連する刺激だけでなく日常の関係性や環境が刺激として認識されており、TICに取り組んでいる施設では刺激の同定に努めていたが、把握されにくいことも少なくない。子どもへの対応の難しさにより、職員が自信を失ったり、子どもや職務への回避が生じたりすることもあった。 こうした職員の認識や対応の変化を把握するために、次に、入所児童の在籍が多い小学校での継続的なフィールドワーク(6回)と教職員6名へのヒアリング調査を実施した。教員としての経験だけではトラウマのある児童の理解は困難であり、トラウマが発達に及ぼす影響について知識を得る機会が不可欠であると感じられていた。特別支援教育は、児童理解の一側面として有用ではあるものの、特性を理解する視点だけではトラウマの影響を把握することは難しく、回答者全員が学校全体でのチーム支援と児童の包括的理解の必要性を述べていた。また、対応する職員の精神的疲弊も共通する課題として挙げられ、職員室を教員にとっての「安全基地」にする取り組みと施設との情報共有、教育・支援方針の検討と共有が図られていた。 上記調査のうち、いくつかの困難事例を特定し、次年度以降も経過を把握していく予定である。乳児院での保育士を対象とした調査は次年度以降に実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた文献調査と調査対象機関での継続的なフィールドワークを行うことができた。対象となる学校・施設、また教職員とのネットワーキングをもとに、次年度以降の調査を進めることができるため。 一方、コロナ感染症の影響で、予定していた乳児院の保育士を対象とした調査は延期となった。調査の実施に向けて、関連する児童相談所などの行政機関との調整は続けており、状況をみて開始できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
調査は概ね予定通りであるが、ヒアリングや訪問調査の予定が遅れているため、初年度で不足しているデータについて次年度に収集していく。質問紙調査は、初年度の結果をふまえて、修正していく。また、新たな調査内容として、TICの鍵概念の3つ目であるRespond(適切な対応)を検討するために、事例の収集と検討による理解の概念化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症に対する蔓延防止措置が長く続いたため、予定していた調査が延期となり、それに伴う旅費及び謝金等が未使用に終わったため。調査予定は次年度以降に持ち越されているため、当初予算を使用する見込みである。
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