研究課題/領域番号 |
21K02472
|
研究機関 | 旭川大学 |
研究代表者 |
齋藤 眞宏 旭川大学, 経済学部, 教授 (90405621)
|
研究分担者 |
渡邉 巧 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 准教授 (00780511)
大坂 遊 徳山大学, 経済学部, 准教授 (30805643)
草原 和博 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (40294269)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 教師教育者の専門性開発 / セルフスタディ / 省察 / 理論と実践の往還 / 教師教育コミュニティ |
研究実績の概要 |
2021年度の本研究において、以下の2点の分析を行った。 1.セルフスタディの国際的研究動向:セルフスタディは、デューイの民主主義、省察的思考、そしてショーンのreflectionを理論的基盤としている。1992年の全米教育学会の教師教育者たちの議論から、国や地域が違っても教師教育は共通の課題を抱えていること、それゆえにリフレクションを協働で行うことの大切さが注目されるようになった。1994年には全米教育学会でセルフスタディの分科会が発足し、1996年には国際学会が設立された。2004年にはハンドブックの第1版、2005年には国際学術書であるStudying Teacher Education、2020年にはハンドブックの第2版が刊行された。現在は教師教育者の専門性開発だけではなく、教育と社会正義、教科教育実践などの分野にも広がっている。また非英語圏であるオランダ、カナダのフランス語圏、チリ、韓国でのセルフスタディの導入についても分析し、①仲介者の存在、②研究の組織化と論文・翻訳書の出版を通した学術コミュニティへの訴求が,共通に見られることがわかった。 2.日本国内におけるセルフスタディ:セルフスタディに興味を持つ6人の教師教育者にインタビューを行った。その結果①仲介者がいること(=非英語圏の特徴)、②全員専門職の職能発展を意図しているが,個人的興味・関心を基盤に、周囲の人間関係という限られた空間にとどまっていること、が明らかになった。日本におけるセルフスタディの課題は、①教育者には主体性が求められが、仲介者に依存せざるを得ない、②英語による学術的植民地主義の克服であろう。セルフスタディは、看護師や医師など他の専門職養成に関わる教師の専門性開発の方法論としての可能性もある。セルフスタディの今後の発展は、現在の研究者、実践者に委ねられている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は昨今のコロナ禍にもかかわらず、概ね順調に推移している。まずセルフスタディの海外動向については、国際ハンドブックやその他の論文の分析を通してセルフスタディが盛んに行われている英語圏のみならず、オランダやチリ、カナダのフランス語圏、韓国といった非英語圏についても明らかにすることができた。しかしコロナ禍に伴い海外渡航が容易ではないために欧米諸国の教師教育者に対する質的調査は実施できていない。 一方で、本研究が採択される前から、広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)との連携で行われていたセルフスタディの連続セミナーを2021年5月に完了することができた。そしてそれに参加した6名の研究者のインタビューをオンラインで実施し、日本のおけるセルフスタディの実際とその課題についてヨーロッパ教師教育学会(オンライン)で発表した。また国内学会では、研究代表者が異文化間教育学会の特定課題研究のうちの1課題として、自ら実施したセルフスタディの成果を発表した。また同学会の自由研究発表でも、EVRIにおけるセルフスタディの連続セミナーの登壇者とともに別のセルフスタディの実践について共同報告を行った。 そして2022年3月には、セルフスタディの国際動向と日本におけるセルフスタディの受容と再構成について論文化することができた。さらに異文化間教育学会の特定課題研究で発表した事例についても2022年4月に論文化された。 本研究で予定されている書籍の刊行についても原稿はほぼ集まっており、今後編集作業に入る予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究はまず書籍『セルフスタディを実践する-教師教育者による研究と専門性開発のために-(仮)』の刊行を目指す。現在のところ原稿はほぼ集まっている。出版社も決まっており、2022年度中には出版できると考えている。そしてこの書籍を元にワークショップや研究会等を実施して教師教育者のコミュニティ構築を目指す。本年5月に教員免許更新制の廃止が決まり、「教員の意向を汲み取って」研修を進めることになった。学校や教育委員会におけるワークショップや研究会を実施して、学校現場の教師たちがそれぞれが抱えている課題をセルフスタディを通して協働的に探究・解決できる機会を提供していく。 またこれまで通り国内外学会においてセルフスタディの成果を発信していく。2022年度には研究代表者が全米教育学会に参加した。また現時点では異文化間教育学会、ヨーロッパ教師教育学会(オンライン)において発表することになっている。他にも所属する全国社会科教育学会、日本教師教育学会、全米教育学会、さらにはセルフスタディの国際学会であるCastle Conference等においても発表していく。国内外の教師教育者・研究者との情報・意見交換については今後も積極的に実施する。地道にセルフスタディ研究の進展につながるネットワークづくりを行いたい。また研究発表の論文化も合わせて実施する。 研究最終年度には海外のセルフスタディ研究者を招聘し研究会を開催する。コロナの感染状況次第ではオンライン開催となるかもしれないが、極力対面で実施したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって、国内外学会がオンライン開催になったために旅費の支出がなかったため。今年度は一部国内学会等が対面開催されるために、旅費として支出する。
|