研究課題/領域番号 |
21K02676
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
笠井 哲 福島工業高等専門学校, 一般教科, 教授 (90233684)
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研究分担者 |
高橋 宏宣 福島工業高等専門学校, 一般教科, 教授 (90310987)
車田 研一 福島工業高等専門学校, 化学・バイオ工学科, 教授 (80273473)
澤田 宰一 福島工業高等専門学校, 一般教科, 准教授 (80647438)
江本 久雄 福島工業高等専門学校, 都市システム工学科, 准教授 (90556698)
金澤 伸一 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20580062)
渡辺 賢治 常磐短期大学, 幼児教育保育学科, 准教授 (60734986)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高等専門学校制度 / 速成型高等教育 / 後期中等教育相当期間 / 高専教育担当経験者 / 当事者エスノグラフィー / 中長期的高専教育内容レリバンス / シグナリング理論 / <教育―研究―学校運営>の環 |
研究実績の概要 |
高度経済成長のさなかの約60年前に発足した高等専門学校制度は,日本独自の速成型高等教育制度として社会から高い評価をうけてきたといわれる。とはいえ,速修型学制としての高専のデザインは,主にその課程上の時間的な余裕のなさに起因して,発足以来一貫して様々な課題を内包してきた。高専は発足当時の日本国内のきわめて特殊な社会状況への対応様式をほぼそのまま受け継ぎ,現在に至るまで,その主分野が工学諸領域に限定され,また,高専自身の研究機関としての性格は明確には措定されないままになっていることから,現代に通用する高等教育機関としての高専自身の課題を高専の成員が自ら剔出し反芻する契機を欠いてきた。高専が今後の存続価値を担保した制度として充分な自己効力感をもって推移を経ていくためには,現在の高専が直面する課題群の多面的・複層的な可視化・言語化が必須である。従来,教育行政に少なからず関りを有してきた教育社会学的高専研究が高専制度発足以来間歇的に行われたことはあったが,それらはいずれも大学制度下にある教育学部系セクターのスタッフが中心となって調査・分析を行ったものである。これとは対照的に,当研究の骨子は,実際に高専教育の現場を経験したスタッフ自身が,エスノグラフィーの形態で当事者的に高専教育の現在および今後の課題を体感的に明るみにだすという意図にある。研究期間初年度である2021年度は,主として,高専の入学生にとっての高専教育課程の導入期間としての高専1~3年次の教育担当者および経験者とのエスノグラフィック・ヒアリングを実施し,今般高専制度が高等教育制度としてのコンピテンシーを具備できるようになるための中核的課題の剔出に努めた。ヒアリングのなかで少なからざる現場的な課題が発見された。それらの課題群の言語化・報文化が2022年度の重要な研究上の作業となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
③2021年度は主として全国各所の国立高等専門学校機構所属の高専の一般科目(主として高専1~3年次配当)を担当する教育/研究職経験者および従事者とのエスノグラフィック・ヒアリングを実施した。その結果,以下のような現状認識が示唆された。1)高専での一般科目履修は形式上あるいは名目上,大学学士課程での教養部に相当するが,実際は,対象年次が中学校卒業直後に接続していることに起因する<着地点イメージの描像の困難>が高専教育に共通した問題として指摘された。高専の高校との学制上の差異は,高校の学修過程と比較したときの(大学受験準備期間がないなどの)表面的な<効率の良さ>の視点で高専側に過剰なまでにポジティブに言及されるのが定石だが,現実には高専での一般科目教育は「対処法としての高校への漸近」へ往きついている。さらに,高専は厳然として高校ではないという<原則論準拠型>の潜在意識が,上記の「現実策としての高校漸近型」スタイルでの習達をも阻害している。2)上記の「完成度が低い高校漸近型」へ陥りがちな高専一般科目の有り様の改善には,少々ハードルは高くても,高専という特殊な課程専用の一般科目教育方針が必要であろう。この悩みには,各校の垣根を越えて模索・研究的に議論される契機があるべきだが,現状ではそれを欠いている。この<改善方法の協働的な模索>の機会の欠乏じたいが,一般科目担当者の健全な職業人的自己効力感を深刻に減退させている。3)とくにリベラルアーツ分野では,大学にありがちな主流的な研究スタイルや課題設定姿勢とは異なる,独自の研究コンセプトを醸成することは重要である。これを確立するためには多くの労力と時間はかかるが,忍耐強い探求に値するアクションであるといえる。高専で一般教科教育に従事する者であるがゆえになしうる研究のスタイルや,その発表の場が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度以降のエスノグラフィック・ヒアリングにおいて,高専教育に潜在する問題意識をさらに明確に剔出する。 2022年度以降は,本研究の中核的課題である専門分野教育や,その集大成的な研究・制作型の教育の実施およびそれらの職業上もしくは後続の高等教育課程でのレリバンスの問題へとコマを進める。高等専門学校に代表される速成型の課程が慢性的にかかえる問題のひとつに,学習者の<消化不良>感覚の常態化があるのは,高専教育の担当経験者には知悉されている。高専の内側において常に有るこの不安感は,高専教育従事者が自らの職業を充分な自己効力感をもって為すことへの深刻な困難要因である。一般に理工系および製造業分野で高専教育の評価は高い,という言説が定番であるがゆえに,かえって,高専教育従事者は,自らの<教育>という職業活動の意義や効果性が,自らの正統的努力に因り健全に発現し得ているのか否かという疑問に苦悩しがちである。そこで,2022年度以降1年乃至1年半をかけ,各地の専門分野の高専教育担当者へのエスノグラフィック・ヒアリングを精力的に実施し,各地の担当者が自らの職業人生を賭けている高専教育活動において心中にいだく不全感覚や,状況改善のための要諦の,段階的な描出を試みる。現時点でのヒアリングの重点項目は以下のとおりである。 a)高専教育の長期的なレリバンスを確保するうえでの現在の高専教育への疑念および状況改善への試行的提言事項の収集 b)高度専門技術者の輩出という視点でみたときの高専教育の<職能シグナル>的位置づけと現況改善のためのアイデア創出 c)学生の将来的な総合的パフォーマンスの発揮能力の涵養が可能な,インテンシブな研究活動参画を実現するための高専運営を念頭においた関係者間ブレーンストーミング
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、感染症拡大のため勤務校から出張を控えるようにという要請があり、思うように調査実施することが困難であった。社会状況を注視しながら、調査を進めていく予定である。①夏期休業中を活用し、前期中に可能な限り調査旅費を執行する。②後期の間に、旅費による調査結果の検討と分析を実施したい。
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