日本では超高齢化が進んでおり、多世代共創社会を構築していくことが必要となる。そこで本研究では、青年期である大学生と高齢者が共に学び合う学習プログラム「地域の物語を演劇にする」を企画した。演劇という手法を選択した理由は、本研究前に行ったアクションリサーチの成果(森 2020)から演劇手法は高齢者との馴染みが良いことがわかったためと、先行研究(石野 2021)から演劇に他者への理解を深める作用があると考えたためである。 本研究のフィールドは帝京大学八王子キャンパスであり対象は帝京大学大学生と大学に近接する百草団地に住む65歳以上の高齢者である。具体的には、①大学周辺地域に在住の高齢者に大学生がテーマに即したインタビューを行い、②そこで聞き取ったエピソードを5分程度の寸劇にし、③全体として30分程度オムニバス作品として公演し、④公演を大学周辺地域に在住の高齢者に観てもらいディスカッションを行う、という活動を後期の授業「教育学Ⅱ」として実践した。実施前後に高齢者に対する意識について尺度を用いて測定し、イメージの変容についても捉えた。また公演後に行った学生のみの報告会でのスライド内容および授業終了後のレポートに関しても質的な分析を行った。結果、地域の高齢者に無関心だった学生が関心を持つようになる、高齢者に対し否定的な感情を持つ学生が考えを変化させるといった他者理解の深化に関する成果が認められた。 一方、高齢者に対しては数回に渡りグループインタビューを行った。その結果、大学生に対し否定的な感情を持つ部分も依然残ったが、大学生の特徴を理解し、親和的・協調的な意見を持つようにもなったことがわかった。
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