研究課題/領域番号 |
21K03036
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
三島 浩路 中部大学, 現代教育学部, 教授 (90454371)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スマホ依存 / 現実逃避傾向 / 高校生 / 中学生 / 将来展望 |
研究実績の概要 |
中学生や高校生のスマートフォン依存に関連する要因として、本研究では現実生活からの逃避傾向の強さに着目し、中学生・高校生用の現実逃避傾向尺度の開発に着手した。現実逃避傾向とスマートフォン依存との関連についての文献研究を行い、現実逃避傾向のどのような側面がスマートフォン依存にかかわるのかを探索したり、大学生・大学院生を対象にして中学生や高校生の現実逃避傾向に関連する要因を抽出するための構造化されたインタビュー形式の資料収集を行ったりするなどして、中学生や高校生の現実逃避傾向測定用尺度原案を作成した。この尺度を利用して、2つの中学校と3つの高校で生徒を対象とした調査を実施し、約1,500人の生徒から資料を収集することができた。収集した資料を分析し、現実逃避傾向測定尺度原案としてまとめた質問項目相互の相関関係等を確認した後、因子分析を行い尺度の構造を推定するなどした。こうしたプロセスを経て、1因子構造からなる中学生・高校生用の現実逃避傾向尺度の一次案を作成した。 一次案として作成した現実逃避傾向尺度と、学校適応状況、抑鬱傾向、さらには、将来展望の明確さなど、現実逃避傾向の強さとの関連が推測される特性等についても、今回の調査で同時に調査したことから、現実逃避傾向とこれらの特性等との関連性を分析するなどして、一定程度の信頼性が見込まれる中学生・高校生用現実逃避傾向暫定尺度を開発した。 さらに、中学1年生から高校3年生にかけての学年進行により、現実逃避傾向がどのように変化していくのかという点や、生徒の将来展望の明確さとの関係を中心にして考察を重ね、中学生や高校生の現実逃避傾向を抑制する教育実践活動を通して、生徒のスマートフォン依存傾向を低減する具体的な授業展開の手法等を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中学生・高校生用のスマートフォン依存に関連する生徒の現実逃避傾向を測定するための尺度開発を2021年度の主要な研究活動と位置付けており、尺度として利用する質問項目の選定や想定される因子構造などを検討して現実逃避傾向測定用尺度原案を作成した。尺度作成と並行して、A県内の複数の中学校や高校に対して、本研究の概要を説明するなどして調査協力を依頼し、A県B市内の高校2校・中学校1校、A県C市内の高校1校・中学校1校から調査の承諾が得られた。この調査を実施するに当たり所属大学の倫理審査委員会に承諾された内容を基にして、承諾が得られた学校で調査の詳細や調査結果の利用方法についての説明を行い、2021年12月から2022年1月にかけて、これらの学校の生徒を対象とした調査を実施することができた。 この調査により収集した約1,500人分のデータを分析し、中学生や高校生の現実逃避傾向を測定する項目の絞り込みや、尺度の因子構造の検討などを重ね、現実逃避傾向尺度の一次案を作成することができた。その後、一次案として作成した現実逃避傾向尺度の妥当性を検証するために、中学生や高校生の現実逃避傾向との関連性が理論的に予想される他の特性等を測定した尺度との相関関係などを検討し、現実逃避傾向暫定尺度について一定程度の妥当性を確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
中学生や高校生の現実逃避傾向暫定尺度の開発プロセスで行った分析で、現実逃避傾向が学校適応感や生徒の将来展望の明確さなどと関連する可能性が示唆された。こうした結果が得られた背景について、先行研究をレビューするなどして詳細な情報収集を行ったあと、文献研究の結果とデータ分析の結果とをまとめ、2022年度中に開催される心理学系の学会で報告することを目指している。また、学会報告後には、これらの結果を論文化して、学部紀要等への投稿を計画している。 中学生や高校生の現実逃避傾向とスマートフォン依存傾向との関連についても、資料収集を行う。スマートフォン依存傾向に関しては、スマートフォン上で生徒が起動するアプリケーションのちがい(例:ゲーム系、コミュニケーション系に)により、依存の特徴や生徒の個人特性との関係が異なることも予想される。また、アルコール依存に関連した先行研究をレビューした結果、ネガティブなライフイベントが依存を生じさせる引き金となる可能性も浮上したことから、生徒のライフイベントとスマートフォン依存傾向・現実逃避傾向の関連性について、先行研究を参考にするなどして理論的な検討を進めたい。 さらに、中学生や高校生のスマートフォン依存を抑制する教育実践の具体的な手法を探索するために、2022年度は生徒の将来展望を明確化させるキャリア教育の手法を参考にするなどして教育実践の手法を探索する。具体的には、生徒の将来展望をより明確化させることにより、現実逃避傾向を弱め、スマートフォン依存傾向の低減を目指す授業の展開方法などを学習指導案形式にまとめ、授業実践することにより有効性の検証、課題の抽出を行う。こうした授業実践に関しては、現在、複数の中学校および教育委員会と実施に向けた協議を重ねており、2022年度は中学校を中心とした授業実践を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はスマートフォン依存や現実逃避傾向等に関連したネット調査を計画していた。しかし、分析に必要な数のデータを確保するためには、膨大な経費がかかってしまうことが判明したために、中学校・高校等に調査を依頼して実施する方法に変更した。また、調査を依頼する学校等への出張を計画していたが、いくつかの学校等から新型コロナウイルス感染症の蔓延により、訪問の中止が求められたために学校等訪問を行わなかった。こうしたことにより、使用額が減少した。 2022年度は当初の計画よりも多くの教育委員会・学校に調査依頼を行い、より広汎な調査実施に向けて積極的に活動する予定であり、出張に関する費用の増加やデータ入力作業の人件費等の増額が予想され、前年度の減額分はこの予算として利用する予定である。
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