研究課題/領域番号 |
21K03303
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藤家 雪朗 立命館大学, 理工学部, 教授 (00238536)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シュレディンガー作用素 / スペクトルシフト関数 / 量子共鳴 / 半古典漸近理論 |
研究実績の概要 |
成果のあった研究は、主に次の二つである。 一つは、Mouez DIMASSI (Univ. Bordeaux)との共同研究で、有界なポテンシャルを持つシュレディンガー作用素の散乱問題、特にスペクトルシフト関数の半古典漸近展開を明らかにした。この種の研究は、従来遠方で正の冪を持って減衰するポテンシャルに対しては数多くなされてきたが、ここでは対数的な減衰しかしないポテンシャルや、さらには減衰しないポテンシャルとして、0次斉次ポテンシャルをもつシュレディンガー作用素に対してスペクトルシフト関数のワイル型漸近公式、その導関数が完全な漸近展開を持つための十分条件などを研究した。この結果は雑誌Asymptotic Analysisへの掲載が決定している。 もう一つは、Marouane ASSAL (Univ. SanTiago), K.Higuchi (Ritsumeikan Univ.)との共同研究で、行列シュレディンガー作用素の量子共鳴の半古典漸近分布を研究した。行列作用素の場合、そのポテンシャルが交差することによって、スカラーの作用素にはない特有の現象が起きる。それが化学反応など量子化学の重要な現象を記述していると考えられる。この研究では、1次元のモデルに対してこれまでAndre MARTINEZ (Univ. Bologna), Takuya WATANABE (Ritsumeikan Univ.)と行ってきた一連の研究を大きく一般化することに成功した。一般化できたのは、エネルギー交差を一つから有限個にまで拡張したこと、各エネルギー交差を横断的な交差から有限次で退化した交差にまで拡張したことである。交差点でも超局所的な接続公式の計算に成功したことが成功の要因である。この結果は研究集会等で発表する一方、現在論文として執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、この研究期間の主な主題と位置付けている、行列シュレディンガー作用素の量子共鳴の半古典漸近分布とエネルギー交差の問題がかなり一般的な枠組みで捉えることができてきたと言える。前項でも述べたように、エネルギー交差が複雑に何回も起きたとしても、また、そのそれぞれの交差が接触交差であっても、どの交差が最も量子共鳴の漸近分布に強く影響して、量子共鳴の虚部が半古典パラメータに関してどのようなオーダーを持つのかが計算できるようになった。次項で述べるように、行列の次数が高くなるとどうなるのかについては未解決の部分が残るものの、ジェネリックにはこの問題の一般論が出来上がったと考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
行列シュレディンガー作用素の問題は、これまで2×2のモデルに限って行ってきたが、これをN×Nに拡張することがまず第一の目標である。2つのエネルギーが交差する場合は本質的にこれまでの研究で理解できているが、3本以上のエネルギー曲線が1点で交差する場合に何が起きるのか、それを超局所的に解析できれば、1次元の行列シュレディンガー作用素のエネルギー交差の問題はほぼ完全に解けたと言って良さそうである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、予定していた偏微分方程式姫路研究集会の開催がオンラインになって、講演者の旅費や会場費などの使途がなくなったほか、計画していた海外での共同研究、海外共同研究者の日本への招聘などが全て実施不可能となり、オンラインとなったため。今年度は姫路研究集会以外にもサマースクールなどの開催を計画しており、コロナ禍が収まれば、有効な補助金の利用ができると期待している。
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