本研究の結果は大別して二つある。第一には、金微粒子と糖認識部位であるボロン酸をつなぐアルキル鎖上における一次元スピン拡散の存在の実証である。 プロトンNMR及び縦磁場μSR(ISIS-RALで実施)によって,一次元スピン拡散に特徴的な、縦緩和率の磁場依存性(1/T1~1/√H)を観測することに成功した。ここで,一般的に,アルキル鎖は共役鎖とは異なり,スピン拡散を起こしにくいと考えられるが,実際,観測されたNMR-T1は,室温で数秒程度と極めて長い。これは,アルキル鎖が非常に小さなスピン拡散係数を有しており,結果としてT1が長くなり,それを観測できたと考えれば矛盾はない。 次に,本研究の第二の結果は,NMRによって糖センサーコンポジットの部位間の平均距離を求めたことである。本系のような複合系は,たとえ透過型電子顕微鏡を使用しても,金粒子のコントラストだけが映し出され,周囲の修飾分子を捉えるのは難しい。本研究では,1H-NMRを使い,ボロン酸部位に近いプロトンサイトと,ルテニウム錯体に近いプロトンサイトをスペクトル分離し,その超微細場の温度変化をそれぞれ独立に調べ,古典的なブリユアン関数にフィットすることで,平均距離を導出することが出来た。結果は,ボロン酸とルテニウム錯体が金微粒子表面上に最密充填しておらず,試料合成時に溶媒濃度が下がっている可能性が指摘された。 以上の知見は,将来,より良い糖センサーあるいは他の分子認識センサーの開発に役立つと期待される。
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