研究課題/領域番号 |
21K03616
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
植村 誠 広島大学, 宇宙科学センター, 准教授 (50403514)
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研究分担者 |
加藤 太一 京都大学, 理学研究科, 助教 (20283591)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 天文学 / データ科学 |
研究実績の概要 |
初年度の最も大きな成果は、追跡観測のうち連続測光観測について、自動的な意思決定と自動観測のシステムを開発し、その試行によって複数のWZ Sge型矮新星の早期データの取得に成功したことである。従来、新しく発見される突発天体現象に対して、機械学習を用いたモデルを構築し、天体の型を推定した研究は多いが、その結果を踏まえて行うべき追跡観測を決定し、それを実行するシステムは本研究が初めてである。開発したシステムは広島大学かなた望遠鏡で11月から試験運用を開始し、3月までの期間に、本研究の対象の一つである WZ Sge型矮新星についてその候補4天体のアウトバースト早期のデータを得た。そのうち2天体で、WZ Sge型の証拠となる早期スーパーハンプの検出に成功した。これらの観測は天体の正体を明らかにしただけでなく、可視光と近赤外線で同時に観測したため、そのデータから今後、降着円盤の構造を再構成できる可能性がある点でも意義が高い。このように、本研究の目的である自動的な意思決定システムが、実際の天文学研究で価値の高いデータを生成できることが実証できたことは重要な成果である。 本研究で開発している上記システムについては、国際天文連合 Astroinformatics and Astrostatistics 委員会が開催しているセミナー(オンライン、2022年1月)で講演した。また、研究会「データサイエンス的手法により探求する天文学」でも関連する研究発表を行なった(オンライン、2022年3月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標であった「かなた望遠鏡での試験運用」に成功したため、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。その開発課題に加えて、天文学的に価値の高いデータが実際に得られたことは想定以上の成果である。一方で、開発しているシステムから既設のカメラを自動的に駆動する部分にはまだ問題があり、完全な自動観測は実現していない。ただ、この問題は軽微なものであり、試験運用を継続するなかで解消されると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り、二年目は自動的な分光観測を追跡観測モードの一つとし実装することを目標とする。システムから既設の観測装置を制御するシステムは初年度に作成しており、それを利用して分光観測も行う。ただし、初年度に実装した撮像観測とは違い、分光観測では望遠鏡を天体に向けた後、目的天体の検出、スリット上への移動、スリット内に目的天体が導入されているかの確認、のステップを自動化する必要がある。この課題に取り組み、年度後半には分光観測システムの試験運用を開始する予定である。 初年度に実装に成功した連続測光観測を用いて、WZ Sge型矮新星の研究を継続する。特に、早期のデータを用いた降着円盤の構造再構成を通して、アウトバースト初期の理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で行う高い精度の天体観測を可能にする、広島大学かなた望遠鏡に取り付ける最新のエンコーダーが安価で購入できることがわかったため、予定にはなかったがこれを購入した。その結果、予定していたデータ解析用パソコンの購入に充てる予算がなくなったため、残額を翌年度分と合わせて、十分な性能のパソコンを購入することとした。翌年度分の予算が15万円ほど減るが、研究打ち合わせのための出張をオンラインにするなどして対応できる。
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