研究課題
噴火の潜在性を秘めた静穏な火口湖の活動度評価手法を確立するために,蔵王山の御釜をテストフィールドとして,①水・熱・化学物質収支の評価による浅部地下熱水系の影響評価,②湖水中のヨウ素同位体比分析による地下深部起源物質の寄与の検出,③映像・音響探査による湖底調査 を実施した.最終となる令和5年度は3回の現地調査を行い,そのうち1回は,前年度の音響探査により地すべりで生じたと判断された丘状地形の成因を物質科学的に確かめるために,水中ドローンで位置を確認しながら,丘状地形からの土壌コア試料の採取を試みた.悪天候と湖水の濁りから,目標位置にコアサンプラーを下ろすのが難しく,丘状地形からはコア試料を得られなかった.しかしその近傍からはコア試料を得ることに成功し,それには堆積構造がはっきり認められた.現在,層ごとの年代測定により,堆積速度の推定が行われている.研究期間を通した水・熱・化学物質収支観測から,御釜には一般的な地表よりも高い地下からの熱供給があるものの,それは温水湧出ではなく熱伝導によるものであることがわかった.また,御釜への流入水や堆積物の分析から,高い酸性度は火山活動由来ではなく,周辺土壌中の黄鉄鉱が酸素や水と反応して酸性水が生成されるためと考えられた.丘状地形の成因と合わせ,これらのことから我々は,現在の御釜に表面活動はないという結論を得た.個々の成果はこれまでに,6件の学会発表と2編の査読付き国際論文で報告されている.御釜に表面的な火山活動が“ない”ことの評価ができた一方で,予想に反して御釜があまりに静穏すぎたため,活動の“程度”を直接的に評価する手法を確立するという,当初の目的は果たせていない.この点は今後の課題である.
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Hydrology
巻: 10 ページ: 54~54
10.3390/hydrology10030054