研究課題
東北日本弧の火山弧(奥羽山地の南部)で観測されたドーム状の隆起について、長大活断層によるブロック状隆起の山地とは対照的に、火山弧沿いの薄く弱い地殻では無数の小断層に変位が分散した結果であるという作業仮説を立てた。国内外の火山弧で、ドーム状隆起の普遍性と本作業仮説を検証し、沈み込み帯の山地形成と内陸地震発生に関する新たなモデルの提示を目指している。今年度は、過年度~今年度に採取した基盤岩試料を用い、日本とフィリピンの火山弧で、削剥史の復元と隆起様式の検討を進めた。奥羽山地の北部と、ルソン弧のコルディレラ山地では、深成岩類中のジルコンとアパタイトを対象に、フィッション・トラック法、(U-Th)/He法、U-Pb法等の熱年代解析を適用し、隆起様式を推定した。奥羽山地北部の年代パターンは、南部とは異なり、ブロック状隆起に調和的であった。奥羽山地北部は、第四紀後期の断層活動による山地と盆地の分化が地形的にも明瞭で、南部とは隆起様式が異なる可能性がある。コルディレラ山地もブロック状隆起を示唆する年代パターンを示しており、ドーム状隆起は火山弧の中でも限られた条件で発生すると考えられる。火山弧は地温構造が複雑であり、熱年代による削剥史の復元には不確実性が伴うため、地質温度圧力計とジルコンU-Pb法による新たな削剥史の解析手法の実証も行った。飛騨山脈黒部地域の事例では、約5Ma以降の削剥史の復元に成功し、約0.8Ma以降の削剥速度を約7~14mm/yrと推定できた。削剥速度分布は、従来説の逆断層による傾動隆起より、高温領域沿いのドーム状隆起を支持した。本手法の適用には、数Ma以内に固結した深成岩体の分布が望ましいが、ジルコンU-Pb年代測定の結果、谷川岳、南部フォッサマグナ、東北日本背弧側でも確認できた。今後これらの地域でも、同様に削剥史と隆起様式の推定が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍によりフィリピンでの調査が実施できないという予定外の事態はあったが、コロナ禍以前に採取した試料を活用したこともあり、奥羽山地北部、コルディレラ山地、黒部地域、谷川岳など、多数の地域でデータを取得し、今後の研究への見通しを得ることができたため。
今年度の研究により、ドーム状隆起は火山弧で必ずしも普遍的な現象ではなく、隆起の様式は同じ山地内でも異なり得ることが分かった。今後の方策としては、火山弧のみならず、背弧側のホットフィンガー沿いの山地なども含めた、ドーム状隆起の発生場所の特定と発生メカニズムの更なる検討が挙げられる。すなわち、火山弧(可能なら海外も含む)を対象として、1)現地調査と試料採取、2)年代測定と削剥史復元、3)隆起の様式とメカニズムの推定をさらに進めていく。1)現地調査と試料採取(担当 末岡、堤、田上;連携 Ramos、福田、中嶋):熱年代解析等に供する基盤岩試料の採取を各山地で行う。具体的な地域としては、東北日本弧の奥羽山地から背弧側(太平山地、飯豊・朝日山地など)、谷川岳とその周辺地域、社会情勢が許せばフィリピンのコルディレラ山地での追加調査とシエラマドレ山地 の調査を予定している。2)年代測定と削剥史復元(担当 末岡、田上;連携 Kohn、河上、福田、中嶋):岩石試料からアパタイトやジルコン等を分離し、フィッション・トラック法、(U-Th)/He法、U-Pb法などの熱年代解析を行う。また、岩石薄片を作成し、角閃石などの化学組成分析に基づいて地質温度圧力計解析を実施する。これらにより、温度または圧力の時間履歴を推定し、削剥史を復元する。3)隆起の様式とメカニズムの推定(担当 末岡;連携 芝崎、中嶋):上記で得られた削剥史を基に、山地内での隆起・削剥速度の空間パターンを明らかにする。こうして得られたパターンを適当なテクトニクスモデルで再現することにより、山地の隆起メカニズムを解明する。
コロナ禍により予定していた海外出張が実施できなかったため、旅費や謝金の執行額が予定よりやや少なくなり、次年度使用額が生じた。次年度に海外出張が可能となった場合は、今年度に実施予定だった海外出張を次年度に振り替える形になり、当初の予定より出費が増加することが予想されるためこの次年度使用額で補填する。次年度も海外出張が実施できない場合は、国内調査および試料の分析により重点を置くこととし、その分の出費の増加を次年度使用額で賄う。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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