研究課題
東北日本弧の火山弧(奥羽山地の南部)で観測されたドーム状の隆起について、長大活断層によるブロック状隆起の山地とは対照的に、火山弧沿いの薄く弱い地殻では無数の小断層に変位が分散した結果であるという作業仮説を立てた。国内外の火山弧で、ドーム状隆起の普遍性と本作業仮説を検証し、沈み込み帯の山地形成と内陸地震発生に関する新たなモデルの提示を目指している。令和4年度は、前年度に引き続き、日本とフィリピンの火山弧で、岩石試料の採取と熱年代解析を行い、削剥史の復元と隆起様式の検討を進めた。谷川岳地域では、昨年度の黒部地域と同じく、地質圧力計とU-Pb年代法に基づいた削剥史の復元を進めた。約3Maに固結した谷川岩体に含まれる地点で地質圧力計を適用した結果、約4~8kmの固結深度が推定された。すなわち、これらの地点では固結以降、1~3mm/yrに達する急速な削剥が生じた可能性がある。奥羽山地の南部では、従来はアパタイトの(U-Th)/He年代の空間分布(山麓から山頂に向かって年代が若返る、つまり削剥速度が速くなる)からドーム状の隆起モデルを推定していた。このモデルをさらに確実にするため、アパタイトフィッション・トラック年代の測定を行ったところ、(U-Th)/He年代と同様のパターンが得られた。また、両手法の年代値には100万年オーダーの差が系統的にみられたが、火山の熱擾乱のような短時間で進行する現象ではなく、100万年スケールで進行した削剥を反映した年代分布を示唆する。また、上記に加えて、第四紀の年代に適用可能であり、かつ閉鎖温度が低い(よりわずかな削剥量を検出できる)新しい熱年代手法についても試行的に基礎実験を行った。これは、日本列島を始めとした島弧では、衝突帯などに比べて起伏が小さく若い山地が多く、従来の熱年代法では削剥史の復元が困難な場合があるためである。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍により前年度は見送ったフィリピンでの調査を実施し、コルディレラ山地とシエラマドレ山地から良質の岩石試料を採取することができた。また、奥羽山地、谷川岳などで新たにデータを取得したほか、黒部地域の成果の一部を査読付き論文として出版できたため(コルディレラ山地と太平山地の成果についても論文投稿中)。
令和4年度までの研究により、奥羽山地、黒部地域、谷川岳、フィリピンのコルディレラ山地などについて、削剥史と隆起メカニズムの制約が進められてきた。令和5年度は、これらの地域についてこれまでに採取した試料の分析を引き続き進めるほか、新たな事例地域として、東北日本弧の背弧側のうち、特に飯豊・朝日山地の重点的な調査を予定している。飯豊・朝日山地は、隆起の原因は明らかにされていないが、物理探査やヘリウム同位体比測定により、地下には深部起源の高温流体の存在が示唆されている。したがって、奥羽山地や黒部地域などと同様に、地温が高い地域に変形が局在化したことで山地の隆起が説明できる可能性がある。分析については、これまでと同様、岩石試料からアパタイトやジルコン等を分離し、フィッション・トラック法、(U-Th)/He法、U-Pb法などの熱年代解析を行う。また、岩石薄片を作成し、角閃石などの化学組成分析に基づいて地質温度圧力計解析を実施する。これらの解析により、岩石試料の削剥史を復元し、その空間分布から山地の隆起メカニズムを推定する。また、より詳細な削剥史の復元を実現するため、より閉鎖温度の低い新しい熱年代法に関する基礎研究も並行して進める。なお、令和5年度は本研究課題の最終年度に当たるため、得られた成果の論文化も積極的に進める。具体的には、奥羽山地の熱年代解析の結果、黒部地域の地質温度圧力計とU-Pb年代測定の結果などを査読付き論文として執筆・投稿する予定である。
令和4年度は東北地方への調査を2回予定していたが、他の調査や業務等との兼ね合いもあり2回目は実施できなかった。そのため、旅費や謝金の執行額が予定よりやや少なくなり、次年度使用額が生じた。実施できなかった調査は令和5年度に振り替える形になり、当初の予定より出費が増加することが予想されるため、この次年度使用額で補填する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件)
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