本研究課題では、中国の北宋時代に再建され潮州市や寧波市に現存する木造寺院建築物に見られる石柱の上に斗きょうを何重にも積層した「畳斗」構造と、梁の上に載った斗きょうを柱と柱の間に何段にも配置した「扶壁きょう」構造を研究対象とした。これらの構造では、地震荷重を受けた場合、斗は回転変形を起こし、主に肘木と接触してめり込み変形を起こすと同時に、両者間の摩擦抵抗やダボのめり込みやせん断抵抗によって、大きな弾塑性変形能力を発揮し、一種の木質ダンパーとして機能するのではないかと推定された。このような推定を明らかにするために、「畳斗」構造については、2021年~2022年にかけて1層~5層のモデル畳斗試験体を用いた静的正負繰り返し加力実験並びに小型起震機を用いた正弦波掃引実験を実施し、木質ダンパーとして期待できる高い減衰性能を発揮することを確認した。また「扶壁きょう」構造については、2022年~2023年にかけて斗きょうの配置形式、数、上載荷重の大小等を変化させたモデル試験体を作成し、一定上載荷重を加えつつ静的正負繰り返し実験を行った。実験の結果、モデル試験体の復元力特性は、桁と巻斗間のクーロン摩擦による矩形履歴特性が主で、木ダボの剪断抵抗が若干加算されたものと推定された。当初予想した大斗や巻斗の回転めり込み抵抗は見られなかった。辷り発生後の減衰定数は30~55%という高い値を示し、扶壁きょうをモデル化した試験体のこのような高い減衰性能と特異な復元力特性から、古代木造寺院建築における扶壁きょうは、摩擦ダンパー的な役割を演じていたのではないかと推察された。 以上のように、本研究課題で取り上げた「畳斗」構造や「扶壁きょう」構造はいずれも地震動に対しその特異な高減衰性能によって木質ダンパー的な特性を発揮して寺院構造の地震による損傷を低減する役割を担っていたのではないかと推定された。
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