研究課題
転位への溶質原子の偏析は材料の機械的特性に影響を与えるため、その詳細を知ることは重要である。エネルギー分散型X線分光器(EDX)を具備した透過型電子顕微鏡(TEM)により転位への溶質原子の偏析自体は確認されている。しかし、TEM-EDXでは溶質原子の検出限界濃度が高いことから、TEM-EDXは高濃度での偏析の場合にのみ検出可能であり、適用可能な材料系が限定される。一方、3次元アトムプローブ(APT)は、非常に高い元素識別能力を有しており、軽元素まで検出可能であり、TEM-EDXよりも検出下限濃度が低いという特徴を有する。しかし、APTの空間分解能はTEMの空間分解能より劣り、格子欠陥構造を調べることは困難である。そこで、全くの同一の格子欠陥を含む領域をTEMとAPTで観察し、格子欠陥の構造と欠陥周囲の組成を同時に決定し、両者の相関関係を3次元実空間で明らかにすることである。APTの測定領域は狭く、その狭い針状領域の中に転位を含める必要がある。集束イオンビーム加工装置に具備する走査電子顕微鏡では転位観察は困難であるため、集束イオンビーム加工によって針試料を作製してからTEM観察を行い、針試料内での転位線の位置を確認する必要がある。転位線が針先数百nm以内に存在しない場合には、再度、集束イオンビーム加工装置を用いて追加工を行う。この作業工程を繰り返すことで、観察したい転位を針先端へ持ってくる。この方法により、針先端に転位を含む試料を作製し、TEM観察で針先端の転位を観察し、TEMで観察した転位における溶質原子の3次元元素分布を3次元アトムプローブで得た。鉄鋼材料における転位線上へのCの分布について観察を行い、刃状転位やらせん転位上にCの偏析を確認した。この手法は転位に限らず、さまざまな格子欠陥に適用できるため、派生効果でボイド周囲の偏析についても調査した。
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Materialia
巻: 32 ページ: 101963
10.1016/j.mtla.2023.101963